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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

漁業の6次産業化「ばんや」の成功

第1次産業の起死回生の一手として、“6次産業化”が注目を集めています。生産(第1次産業)と加工(第2次産業)、販売(第3次産業)をうまく組み合わせ、地域資源の有効活用を進める。さらに、新たな地域ビジネスの創出を図ることで、地域の生産者の所得向上、雇用の創造が期待されています。

農業の6次産業化については、最近、農家レストランや観光農園、農作物直売所などの話題がメディアでも頻繁に取り上げられていますよね。“地方創生”の一つの目玉といってもいいでしょう。しかし、6次産業化は、農業にかぎった話ではありません。

今日は、漁業の6次産業化のサクセスストーリーについて取り上げてみたいと思います。首都圏の人にとってはおなじみのスポットかもしれませんが、舞台は、南房総の玄関口、千葉県安房郡鋸南町の保田漁港です。

南房総の玄関口・鋸南町では、古くから沿岸漁業が盛んでした。しかし、90年代以降、巨大船舶が頻繁に往来するようになり、東京湾内での安全な漁業が容易ではなくなったことや、東京湾の開発とともに海流が変化したことで、漁獲高が減少。加えて、好不漁、魚価の変動に伴う漁業経営の不安定さや、就労環境の未整備などから、漁師の高齢化や後継者不足が深刻化していました。

こうした状況に対し、危機感をもって立ち上がったのが、鋸南町保田漁業協同組合です。「魚のことを誰よりも知っている」という漁師ならではの強みを生かすべく、1995年、組合長を中心に、組合直営の魚食普及食堂「ばんや」をオープン。当初こそ、廃材を利用した中古のコンテナハウス2棟で、カレーやラーメンなどを販売していたものの、お客さんからの「もっと地元の魚が食べたい」という注文に応えようと、組合長を筆頭に漁師自らが魚料理をふるまうスタイルを確立。ここから、「ばんや」の快進撃がはじまりました。

口コミで訪れるお客さんが増え、コンテナ店舗が手狭になってきたため、2000年、収容人員210人の「第2ばんや」をオープン。わずか2年後の02年、収納人員132人の「第1ばんや」をリニューアルオープン。さらに、08年、収容人員200人の「第3ばんや」を増設するなど、規模をどんどん拡大してきました。

また、多角化にも積極的に取り組みました。03年、高濃度炭酸泉の「ばんやの湯」をオープンしたほか、定置網漁見学や遊覧海中透視船などのイベントも用意して、海の複合レジャー施設としての地位を確立。「ばんや」はいまや、年間約60万人が来店する、日本最大級の“食事処”に成長しました。
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ちなみに、「ばんや」の料理の売りは、なんといっても、保田や館山などの魚市場で仕入れた新鮮な魚介を、低価格で楽しめることですわね。人気メニューの「朝獲れ寿司」850円や、「刺身六点盛り」1450円を筆頭に、焼き物や煮もの、揚げ物など、100種類近いメニューが並び、そのほとんどは2000円以下です。

私の事務所のスタッフの週末取材によれば、「マグロのカマ焼き」は950円、「船上煮魚ぶっかけ丼」は1000円で、このボリュームですからね。ランチはものすごい行列で、客足がひきもきらないというのも、まあ、納得ですわな。
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さて、本題に戻って、「ばんや」の成功は、どのようなインパクトを生み出しているのでしょうか。一つは、水産物の高付加価値化です。「ばんや」で使う食材は、保田や館山の魚市場で仕入れますが、2010年のデータでは、総仕入れ額3億2800万円に対して、総売り上げは8億3200万円と、約2・5倍の高付加価値化を実現しています。

また、「ばんや」では、週末60人から70人の地元スタッフを雇用し、地域の雇用拡大に貢献しています。漁協が6次産業化を通して、“稼ぐ力”を身につけたことで、活力ある漁村づくりに一役買っているのは間違いないでしょうね。

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