Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

渋滞解消のカギは「知覚」にあり

「万物は渋滞する」
「渋滞学」の創始者で、東京大学教授の西成活裕さんはそうおっしゃっています。人間の身体、会社の組織、交通など、世の中のありとあらゆるものには「流れ」がある。そして、「流れ」があるところ、必ず“澱み”や“詰まり”がある。この流れの滞りの原因を解明し、解消するのが「渋滞学」の本質といいます。

「渋滞」という言葉を聞いてまっさきに思いつくのは、高速道路の渋滞ではないでしょうかね。ゴールデンウィークや盆暮れ正月に、「○○インターを先頭に50kmの渋滞」なんてニュースを耳にするのは珍しいことではありませんわね。

国土交通省によると、渋滞による損失時間は1年間で38.1億時間(1人当たり年間30時間)に上り、貨幣価値に換算すると、その経済的損失は9兆円を超えるといわれています。また、走行速度が時速30kmから15kmに低下すると、二酸化炭素排出量は30%増加するというデータもあります。その意味で、渋滞対策は、経済対策であると同時に環境対策の柱の一つとして捉える必要があるんですね。

では、渋滞を減らすにはどうすればいいのか。もっか、その最大の課題といわれているのが、「サグ渋滞」対策です。

「サグ渋滞」とは、「サグ部」とよばれるすり鉢状の地形で発生する渋滞です。「サグ部」では、下り坂から登り坂への切り替わりに気付くことができず、無意識のうちに走行速度を落としてしまうドライバーが少なくありません。前方を走る車の速度が落ちれば、当然、車間距離はどんどん詰まっていく。後続車が次々とブレーキを踏む結果、大渋滞が発生するわけですね。

「サグ渋滞」は、高速道路会社にとって文字通りの頭痛のタネなんですね。例えば、NEXCO東日本管内で発生する渋滞の約7割は「サグ渋滞」だというデータさえあります。実際、渋滞“名所”として悪名高い、中央道小仏トンネルや、東名大和トンネルは、「サグ渋滞」の典型といわれています。首都高では、3号渋谷線下りの池尻付近が、「サグ渋滞」の多発地点として知られています。

「サグ渋滞」は、人間の知覚に起因する現象ですから、その対策は容易ではありません。しかし、「サグ渋滞」が莫大な経済的損失や環境汚染の引き金になっているとすれば、当然、手をこまねいているわけにはいかない。ではどうすればよいのか。首都高が出した答えが、今年2月、3号渋谷線下りの池尻ランプ付近に設置した誘導灯「エスコートライト」です。

「エスコートライト」は、LEDの光を車の進行方向へ連続的に流して、「サグ部」における無意識的な速度低下を防ぐ仕組みです。すべてのクルマが光の進行に引っ張られて、同じ速度を保つことができれば、渋滞の解消・緩和につながります。視覚効果を利用して、スムースな交通を維持するためのソフト対策といっていいでしょう。ちなみに、光の進行速度は、首都高の制限速度と同じ時速60kmに設定されています。

「エスコートライト」の導入により、どのような成果があがっているのでしょうか。首都高によると、「エスコートライト」が設置されている左車線を中心に、混雑時の走行速度の改善がみられ、交通容量が増加したそうです。具体的には、3号渋谷線(下り)と中央環状線(内回り)における7時~24時までの渋滞損失時間が13%減少したほか、谷町ジャンクション―三軒茶屋ランプ間の夕方ピーク時間帯における所要時間は平均24分から21分へと、12.5%も短縮したといいます。抜本的な解決策になっているとはいえないまでも、渋滞緩和に一定の役割を果たしているのは間違いないところでしょう。

ページトップへ