8日の日本経済新聞に、「伊那食品工業、食べられるフィルム本格生産」という小さな記事が載っていました。私はこの1月に、伊那食品工業を訪れる機会がありました。2度目の訪問です。
伊那食品工業は、長野県伊那市にある優良中小企業です。年商約176億円。社員数は約440人です。寒天やその関連商品の製造販売を手掛け、人気商品の「かんてんぱぱ」は、よく知られています。
会長の塚越寛さんは、企業が、年輪を重ねるようにゆっくりと着実に成長する「年輪経営」を唱えています。トヨタ社長の豊田章男さんも、近年「意志ある踊り場」発言など「持続的成長」を掲げていますが、塚越さんと交流があり、影響を受けています。
伊那食品工業は、1958年の創業以来2005年までの47年間にわたって、増収増益を続けてきました。まさに「年輪経営」です。しかし、寒天ブームによって需要が急伸した結果、ブーム後に需要が減少し、記録は途切れてしまいます。現在は、再び安定的な成長を続けています。
さて、記事によれば、伊那食品工業は、伊那市内に新工場をつくり、食べられるフィルム、すなわち「可食性フィルム」を11月にも本格生産する計画です。
「可食性フィルム」とは、何なのか。塚越さんの言葉を借りれば、「オブラートの親玉」です。味のしない透明なフィルムで、お湯に溶ける性質があります。
例えば、コンビニで麺類を購入すると、麺と具の間に樹脂製のフィルムが入っていることがあります。食べる前にとり出すと、食材の汁がついていたりして、手や服が汚れないように気を使う、あれです。そのフィルムの代わりに使えば、レンジで温めたときに溶けてなくなり、フィルムをとり除く煩わしさがないばかりか、ゴミが出ず、環境にもやさしい。
これは、画期的イノベーションですよね。
塚越さんは、次のように話していました。
「従来は、海外で生産した寒天を輸入し、加工して、業務用として販売すれば商売になっていたけど、いまは、それじゃあ付加価値がつかないんですよ」
意外なようで当然のことですが、持続的成長には、イノベーションが欠かせません。逆にいえば、イノベーションによる付加価値の高い新製品や新用途の開発が、今後数年間の着実な成長を支えます。
伊那食品は、可食性フィルムによって、持続的成長の歩みを、また一歩進めたといえるでしょう。