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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタ女性常務の“蹉跌”

トヨタの常務役員ジュリー・ハンプさんの逮捕には、正直、びっくりしました。しかも、麻薬取締法違反の疑いというのですから、いったい、何が起こったのか……と、正直、思いましたよ。
これは、トヨタの人材多様化がもたらした落とし穴だったのではないか。

何度も書いてきたように、トヨタが3月4日に発表した、4月1日付の人事は、非常にアグレッシブかつ大胆なものでした。先日も書いた通り、初の外国人副社長としてディティエ・ルロワさんの就任、初の女性常務役員としてハンプさんの就任は、まさしく刺激的人事でした。

日本人男性で固められたトヨタのボードを変えていこうという意志が明快に感じられました。狙いは、人材の多様化・グローバル化ですよね。内向きのトヨタの企業風土を変えるために“地雷”を埋めたといったら失礼でしょうか。

トヨタ社員の目を開かせるためには、大胆な人事が必要ですね。むしろ、正しかった。ただし、大きな変化を巻き起こそうとすると、大きなリスクが伴います。
今回の人事に当たって、トヨタはリスクマネジメントが十分ではなかったのでは。いいかえれば、グローバル人事に慣れていなかった。あえていえば“にわかグローバル”の落とし穴といったらいいでしょうか。

その点、トヨタは、反省が必要でしょう。

それから、急遽開かれた社長の豊田章男氏の“おわび会見”で気が付いたことを、以下、独断と偏見を承知のうえで、二、三述べてみます――。
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彼女を起用した理由について、章男さんは“人柄”発言が何度もあった。能力という言葉は出なかった。むろん、それを前提としての“人柄”発言があったかも知れません。少し気になりました。

それから、彼女はトヨタに溶け込もうと努力をしていたという発言にも、少し引っかかりました。当然でしょうね、と。“トヨタの文化”はじつに強固です。しかも、モノづくりを得意としているだけに。“男文化”そのものです。それは、長所でもあり、短所でもあると思います。彼女は、赴任してわずか3か月弱、トヨタ文化に溶け込もうとして、苦労したのではないか。まさかと思うが、ホームシックはなかったのか。

というのは、記者会見で見た彼女は、少し線が細いように感じました。笑いが少なかった。気の強そうな日本マクドナルドの女性社長のカサノバさんとは、大違い。それから、章男さんは、「現場をまかせられる人材」という発言がありましたが、彼女は日本の現場に相当ストレスを感じていたのではないか。話に聞くと、彼女は部下との“10分間ミーティング”で、「それはなぜ」と、次々と質問を浴びせたといいます。トヨタには“5つのなぜ”といってなぜを次々とつきつめていくと、“真因”に達するといいます。それはいいのですが、彼女の場合、真面目過ぎ、その“なぜなぜ哲学”におちいって少しアバウトさに欠けていたのではないか。

なぜ、私がこのようなことをいうかというと、グローバル化の困難さを指摘したかったからです。日本の企業は、大なり小なり“年功序列型現場”の面を持っているからです。とはいえ、ここが肝心なところですが、それを乗り越えて徹底的に変えなければ、グローバル化は、絵に画いた餅になります。

トヨタの女性常務の不祥事は、一時的に興味本位に取り上げられるでしょう。常務逮捕がトヨタのブランドに与える影響は、まあ、一時的かつ限定的なものでしょう。

問題は、今後の人事に与える影響です。役員の多様化を進めようとした矢先に、事件が起きてしまった。結果、これからの人事に慎重にならざるを得なくなる可能性はないのか。

しかし、ここで、従来のような内向きの人事に戻ってしまっては、トヨタは、何も変わらないでしょう。リスクマネジメントについて反省したうえで、消極的になることなく、今後も多様化を進めていかなくてはいけません。

トヨタは、13年度、14年度に続き、今年度も過去最高益を更新予定です。ここ1、2年、あまりに順調でした。むしろ、いま躓いた機会にいま一度、何が足りなくて、このようなコトになったかについて、真摯に考えるべきです。
トヨタに限らず、企業は、成長するためには絶えず進化しなくてはいけません。しかし、トヨタでも、新しいことに取り組むと、あえていうならば、こうなるということでしょうかね。

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