ホンダと米GM(ゼネラル・モーターズ)は、燃料電池、ハイブリッド、電気自動車などの電化技術、自動運転技術などに提携拡大を検討中といわれています。
「提携交渉」といえば、13日、「『交渉人』池史彦~世界とつながれ~」と題して、ホンダ会長で日本自動車工業会会長を務める池史彦さんの講演がありました。自工会が主催する「大学キャンパス出張授業2015」の一環です。会場は、池さんの母校の上智大学です。
※講演する池史彦さん
あまり知られていませんが、“ホンダの交渉人”、すなわちネゴシエーターとして活躍されたのが、池さんです。古くは英ローバーの持株の買い増し交渉から、GMとの包括的提携の交渉、最近ではGE(ゼネラル・エレクトリック)との航空機エンジン合弁事業、インドのヒーロー・ホンダとの合弁解消など、大きな交渉を、10件以上も担当したプロの“交渉人”です。
講演では、ローバー、GM、GEとの交渉の話がありました。
ここでは、なかでもGMとの提携の話を、短く紹介してみたいと思います。
1990年代後半のことです。ホンダに、いすゞの会長から「GMに会ってみないか」という話が持ち込まれた。当時、GMは、49%を出資するいすゞの筆頭株主でしたからね。
その頃のGMといえば、世界で約800万台を販売する世界一の自動車メーカー。これに対してホンダの販売台数は約250万台で、事業規模でいえば3分の1以下でした。
「ナンバー1のGMが、何の用?」といぶかしみながらも、池さんは、通訳兼交渉人として、GMの担当者と会うことになります。
じつは、当時、ホンダの時価総額は約4兆円。GMの約3兆円を上回っていた。
「彼らはきちんとそういうリスペクトをもって話をしてくれるんですね」と、池さんは回想しました。
GMの狙いは、ホンダのエンジンにあったんですね。
アメリカは大気汚染が悩みの種で、法律による規制によって、これを解消しようとしてきました。70年に成立したマスキー法を、ホンダが、CVCCエンジンによって、世界で初めてクリアした話は、有名ですよね。
ご存じのように、米国の環境規制は、その後もどんどん厳しくなりました。ホンダは、真面目にコツコツ技術対応して規制にミートするエンジンを開発してきた。
GMは、そのホンダの「エンジンがほしい」と声をかけてきたわけですね。
交渉人・池史彦は、GMの交渉人に聞きます。
「で、いったい何台ほしいの?」
「8割をホンダのエンジンにしたい」
すなわち、640万台です。
ホンダは、やっと当該のV6エンジンをオハイオ工場でつくり始めたところで、30万台から50万台しかつくれない。680万台など、到底ムリな話でした。最終的に、ホンダが当時供給できる5~10万台を提供することで、この話は終わったんですね。
「GMという世界一の、アメリカを代表する会社からお声がかかったというのは、それだけの技術を、小さいながらもうちの会社がもっていたという証です」
と、池さんは胸を張りました。その通りですよね。
ホンダとGMの提携関係は、以来、現在に至るまで続いています。
現在、米国では、「一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率をZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)としなければならない」というZEV法による規制が行われています。
「技術的には非常にハードルが高いですし、事業的にも非常に厳しいので、当時からのお付き合いもあり、燃料電池については、GMさんと一緒にやろうということで、つながってます。これも、17、8年前のご縁があったからかなと思っておりますし、ホンダに対するブランドや技術力を、GMがリスペクトしてくれている証の一つかなと思っています」
これは、池さんのコメントです。
GMとホンダは、長い付き合いで、気心の知れた間柄です。独立心の強いホンダが、GMとだけは組んでいる理由は、この長い付き合いにもあるといっていいでしょう。信頼関係があるのでしょうな。
まあ、GMとしては、トヨタと組むわけにはいきませんからね。ホンダだから組めるという事情もある。トヨタだって、GMとは組めませんわねぇ。
そのトヨタは、先の環境フォーラムで、2050年にガソリンエンジン車をほぼゼロにするという衝撃的な発表をしました。GMとホンダは、どう出るのか。各社の環境技術をめぐる競争は、ますます激化するのは間違いありませんね。
※会場では、ASIMOのデモンストレーションも行われた。