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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

VWに見る欧州企業の限界

フォルクスワーゲン(VW)による排ガス規制逃れ発覚から1か月。全容解明には時間がかかりそうなだけに、VWの再建は2~3年どころか、もっと時間を要するのは間違いないでしょうね。

VWは09年以降、1100万台を超えるディーゼル車の制御ソフトに不正な細工を施し、当局による排ガス検査をすり抜けてきた。正直、VWが不正、いや犯罪に手を染めるとは、誰も想像しなかった。驚きの一言ですね。背景には、マルティン・ヴィッターコーン氏による、約570万台だったVWの世界販売台数を18年までに1000万台にするという、拡大路線があるといわれます。

VWは現在、ヒトラーにも重用されたポルシェ一族が過半数の株式を持つ。いうなれば、VWの不正には、同族支配の問題が隠されているといっていいでしょう。一族という閉ざされた場で経営が行われていたからこそ起きたスキャンダルといえます。

欧州には、きわめて息の長いブランド企業が数多く存在し、その多くが同族企業であることはよく知られる。グッチ、ロシュ、ZARA、ロレアルなど、枚挙にいとまがない。それら企業は、株主からの過剰なプレッシャーを受けることなく、長期的経営のもとに、ブランドを育んできた。

ところが、グッチを見ればわかるように、同族経営はひとたび歯車が狂いだすと、弱さが前面に出てしまう。グッチが90年代、財産をめぐる骨肉の争いを発端として、そのブランドをアラブの大富豪に売り渡し、ブランド力を失墜させたことからもわかるように、同族経営には強さと同時に弱さが同居している。

なぜ、強さが一転、弱さになるのか。同族企業に経営陣の暴走を許さない仕組み、すなわちコーポレート・ガバナンスの欠如が見られるからです。何事にも、“内側の論理”がまかり通る。“外側の論理”はいっさい考慮されない。

たとえば、意思決定の閉鎖性だ。同族の結束が強いあまり、同族の中核メンバーを中心に特有の風土がつくられ、外部の声が届かない。それは、現代の企業にとって致命傷にほかなりません。VWは、欧州企業の限界を象徴していると見ていいでしょうね。

だからこそ、ドイツ企業の頂点にあったVWの停滞は、ドイツ経済、いやEUの景気動向に多大な影響を与えるだろうといわれているわけですよね。

反対に、つねに新しいことに挑戦する意欲をもち、オープンな企業風土をもつ企業といえば、米国シリコンバレーに集積するベンチャーです。家族経営が根強く残る欧州とは正反対ですよね。

アップル、グーグル、ツイッター、フェイスブックなどに見られるように、型にとらわれない自由闊達なビジネススタイルを特徴とし、何か新しいこと、おもしろいことをしたいという気骨のある人たちが集まってくる。だからこそ、世界最先端の技術革新を世界に発信できる。それは、伝統を重んじる欧州企業には見られない独特のシリコンバレー文化ではないでしょうか。

また、シリコンバレーの企業は、すべてを自社でやろうとはしない。協業があたりまえのように行われている。だから、スピードがある。

VWの不正問題が、情報をクローズドにするがゆえに起きたスキャンダルだとするならば、その再生には、閉ざされた経営を改革することが必須だといえる。

日本企業にも、クローズドな企業風土がないとはいえない。その意味で、日本企業はこの際、シリコンバレーのオープンな企業風土に学ぶため、思い切って、シリコンバレーに研究拠点などを移すことを考えてもいいのではないでしょうかね。

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