日経産業新聞最終面に掲載されるコラム「仕事人秘録」に、現在、経営コンサルタント大手のフォーバル会長、大久保秀夫さんが連載されています。
大久保さんは、80年に、電話機を販売する「新日本工販(現フォーバル)」を設立し、電話機市場の90%をNTTが握る時代に民間電話機販売に参入しました。
87年には「全自動新電電選択アダプター」を開発し、電話代の低価格化に成功。例えば3分400円だった東京―大阪間の通話料金を、3分130円にまで下げました。いわば、情報通信業界の風雲児でした。
その後、インターネットや中小企業のコンサルなどの分野に参入し、現在にいたるまで、トップとして同社を引っ張ってきました。
大久保さんには、以前インタビューしたことがあり、連載を楽しみに読んでいます。
4日に掲載された連載第1回目に、次のようにありました。
「最近、高い自己資本比率(ROE)を重視する経営者や投資家が増えている。ROEは経営指標の一つであるけれど、社員や顧客、環境に負担を強いて実現するような企業は長続きしないだろう。社員を育て、顧客を大切にし、地域社会に貢献する姿勢が欠かせない」
情報通信やコンサルを手掛けるといえば、ROE重視かと思いきや、否定的なコメントです。
日本企業は元来、人を大切にしてきました。人、すなわち社員を大切にする「人中心の経営」に立ち返らなければ、日本企業の真の復活は望めないと、私はつねづね考えています。その点、大久保さんの、「社員を育て、顧客を大切にし、地域社会に貢献する」という言葉には、納得できます。
日本企業は、「失われた20年」の間、自信をなくし、「社員、顧客、地域社会のため」といった、理想論的な経営に背を向けるようになりました。むしろ、株主利益最大化、利益至上主義といった、米国型経営の影響を少なからず受けました。
しかし、それらの企業が、現在、成功しているかといえば、必ずしもそうではないでしょう。例えば、東芝やフォルクスワーゲンの失敗は、利益至上主義の裏返しではなかったか。
反対に、「社員、顧客、地域社会のため」を掲げ続けた企業のほうが、いま、元気があるのではないか。トヨタやフォーバルは、その一例でしょう。
10月15日に発売した拙著『社員を幸せにする会社』(東洋経済出版社)の序章では、「社員を幸せにする」という視点から、日本企業が強みを生かせる次代の日本型経営の在り方について考察しています。「社員を幸せにする会社」に共通していえるのは、社員の育成に熱心であることです。
本書では、“人を育て、活かすしくみ”として、富田製作所の「技術習得の『改善ノート』」両備グループの「『両備大学』『両備大学院』の幹部候補者養成」、伊那食品工業の「『掃除』の効用」について、それぞれ章末にコラムを掲載しています。
興味のある方は、是非、ご一読ください。