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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタ参加の水素の地産地消サプライチェーン

水素社会への小さな一歩といったらいいでしょうか。神奈川県、横浜市、川崎市、岩谷産業、東芝、トヨタ自動車は、「京浜臨海部での低炭素水素活用実証プロジェクト」を開始します。今年秋ごろから試験的運用を始めます。

この事業は、環境省からの委託事業で、一言でいえば、水素の地産地消サプライチェーンをつくる試みです。水素を、自動車だけでなくフォークリフトなど産業機器に取り入れると同時に、その事業可能性を調査しようというんですね。従来のフォークリフトを使ったサプライチェーンと比較して、80%のCO2が削減できると試算されています。
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※豊田自動織機の燃料電池フォークリフト

今日、横浜市で、プロジェクト概要の発表会が開かれました。随所に興味深い試みが取り入れられていますので、以下、プロジェクトを紹介してみましょう。

横浜市には、神奈川区瑞穂ふ頭に2006年に設置された風力発電所「ハマウィング」があります。現在、発電された電気は、維持管理に必要な電気以外、すべて特定規模電気事業者に売電されています。今回の実証プロジェクトは、このハマウィングで発電したCO2フリーのエネルギーを使います。

ハマウィングで発電された電気を使って、水を電気分解して水素を取り出します。
ここに、一つ目のポイントがあります。
従来、水素社会には、一つの懸念があります。すなわち、水素を燃料とする燃料電池はCO2フリーですが、肝心の水素をつくる過程で電気を使う場合、発電するためにCO2を排出するのでは、結局、「CO2フリーではない」ということです。
今回のプロジェクトでは、風力発電したエネルギーを使いますから、水素は完全にCO2フリーです。これは、大事なポイントです。

ちなみに、水電解装置は、東芝が手掛けます。

さて、つくられた水素は、水素貯蔵タンクに2日分が蓄えられ、水素圧縮機によって「簡易水素充填車」に積みこまれたあと、後述する京浜臨海部の4か所に運ばれます。
フォークリフトは、公道を走ることができません。したがって、自動車のように水素を充填にはいけませんから、反対に、水素充填車がフォークリフトのところにいくわけです。
ちなみに、簡易水素充填車の技術を手掛けるのは、岩谷産業です。

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※簡易水素充填車

ただし、水素充填車に水素を積む際、水素を圧縮するためにも電力が必要です。ハマウィングの電力を使いたいところですが、風が吹くまで待つわけにもいきません。
したがって、ハマウィングに余裕のあるときに、あらかじめ、用意されている蓄電池システムに電気を蓄えておきます。
ここに、二つ目のポイントがあります。

この蓄電池システムは、ハイブリッド車「プリウス」の使用済みバッテリー180台分を再利用してつくられているのです。
ハイブリッド車の使用済み蓄電池をどうするかも、以前から課題になっていましたから、一石二鳥ですよね。

水素を運ぶ水素充填車は、残念ながら燃料電池車ではなく、ハイブリッド自動車です。「まだ水素の4トントラックがないのでハイブリッドでやっていますけども、最終的にはそれも水素にすると、完璧にCO2フリーということになります」と、会見の席上、トヨタ専務の友山茂樹さんは話しました。

実証プロジェクトに使われるフォークリフトは、今年2月に発表された、豊田自動織機の燃料電池フォークリフトで、4か所に計12台が用意されています。
ここに、三つ目のポイントがあります。

フォークリフトの水素使用料を調べるため、異なる環境の4か所が選ばれているのです。①重量物を動かすキリンビール、②軽量のものを多頻度に動かす中央卸売市場本場、③3階で使用するため屋内で水素充填が必要なナカムラロジ、④冷蔵倉庫など低温化で使用されるニチレイロジグループです。

実際に運用することで、初めてわかることは、たくさんあります。効率よく情報を集めるため、異なる4つの環境を選んだんですね。

燃料電池車や家庭用燃料電池の販売などで、水素社会は徐々に身近になっていますが、水素のコストや事業可能性など、まだまだ、わからないことだらけです。
一つずつ、やってみなければ始まりません。このプロジェクトは、まず、その一歩が踏み出されたということでしょうかね。

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