東芝は6日、綱川智副社長が社長に昇格する人事を発表しました。6月下旬の株主総会後に就任する予定です。なぜ、医療部門出身の綱川さんがトップに就くのか。二つの理由が考えられますね。
綱川さんは、キヤノンに売却した医療機器子会社の東芝メディカルシステムズの社長を務めるなど、長年、医療部門を歩いてきました。
「医療事業を優良企業に育てた綱川氏の成功体験、事業構造改革にめどをつけた実行力、事業計画をとりまとめたスピード感と構想力などを評価しました」というのは、指名委員会委員長の小林善光さんのコメントです。
東芝メディカルシステムズは、キヤノンに高値で売却されたことからもわかるように、ここ数年100億円以上の利益を安定的に稼いできた優良子会社です。東芝にとっては、文字通り“虎の子”でした。
その東芝メディカルシステムズを優良子会社に育て上げたのが、綱川さんです。つまり、綱川さんには、収益体質を強くする手腕があります。これが、一つめの理由です。
もう一つは、医療部門出身という経歴の持ち主であることから、不正会計と関わりのあるPCや半導体、原子力と無縁で、クリーンなことです。このことは、東芝の再出発にあたり、極めて重要ですよね。
「私に求められているのは、しがらみのない経営合理性に基づいた経営判断、自由闊達な企業風土を醸し出すことなど、全体的なところを期待されているのではないかと認識しています」綱川さんは、「なぜ、自分が選ばれたと思うか」という記者からの質問に対して、そのように答えました。
まあ、俗にいえば、手垢にまみれていない。
また、副社長の志賀重範氏を、代表執行役会長候補とすることが発表されました。指名委員会委員長の小林善光さんは、原子力事業をめぐる減損処理の問題など、志賀さんを“若干のグレーゾーン”にあるとしていましたが、なぜ、“グレーゾーン”にある志賀さんを会長に指名したのか。
「原子力という国策的事業をやるには、余人をもって代えがたい。また、会長というタイトルは、対外的にも大事」と、小林さんは説明しました。
東芝は、室町正志さんが社長に就任以降、白物家電の売却など不採算事業の整理や人員削減に取り組んできました。東証が指定した「特設注意市場銘柄」からの解除は道半ばですが、混乱の収拾に一定のめどがついたという判断のもと、体制を一新し、大いなる覚悟をもって再出発を目指します。
「注力事業への徹底、財務基盤の改善を最優先します」
と、綱川さんは今後について語りました。
今後の東芝の課題は、信頼の回復、ブランドイメージの立て直しです。その意味で、クリーンなイメージの綱川さんが新社長に就任することの意味は極めて大きい。また、東芝メディカルで培った経営手腕を東芝の再建にどう生かすかについても期待がもてるのではないか。
私はさんざん、新任社長の記者会見に立ち会ってきました。多くの新任社長は、緊張感で表情が固い。ところが、綱川さんはときおり笑みを浮かべるなど、面構えはなかなかでした。蛇足ながら。