ソフトバンクグループ社長の孫正義さんが、社長続投を表明しました。
これまで「60歳の誕生日を迎えたらバトンを渡す」と公言していましたが、後継者筆頭候補としていたニケシュ・アローラ副社長に「社長続投」の意思を告げ、「あと5年~10年は社長にとどまる」としました。
いったい、なぜでしょうか。
一言でいうならば、社長業への未練というよりも、「オレがやらねば」と奮い立っているのではないでしょうか。
じつは、ソフトバンクはここ数年、13年に買収した米携帯大手スプリントの再建にてこずっていましたが、ようやくメドがつき、「守り」の経営から「攻め」の経営へと転じようとしていますよね。もともと「攻め」に強い孫さんは、本領を発揮できる場面ですよ。この好機に、社長を引退するという方が、むしろ不自然ですね。
昨日の株主総会の席上、孫さんは「シンギュラリティ(人工知能が人間の能力を超えるとき)を迎えるにおいて、もう少しソフトバンクの社長を続けたい」と語りました。「やり残したことが多い」というんですね。
AIやロボット、IoT、ビッグデータなどの普及によって、いま、大きなパラダイムシフトが起きようとしています。孫さんにとっては、面白くて仕方がない時代なのでしょう。血が騒ぐといったらいいでしょうか。
もっとも、孫さんとアローラさんの間に何があったのかについて、本当のところはわかりません。アローラさんは、孫さんが、巨額の報酬でもってグーグルから獲得した人物です。「円満退社」を装っていますが、装えば装うほど、ウラでは何かあったのは、間違いない。
まあ、わかりやすくいうならば、オーナー社長の孫さんからみて、何かしら不満が出てきたのは間違いないでしょうね。
オーナー社長の社長交代は、どこの企業にとっても、難しい課題です。
ともにソフトバンクの社外取締役を務める、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングの実質的創業者でCEOの柳井正さん、日本電産創業者でCEOの永守重信さんらも、ここまでのところ、後継者を育てられていない。カリスマ経営者の宿命といっていいでしょうね。
柳井さんは、02年に日本IBMから入社した玉塚元一さんに社長を譲ったものの、わずか3年で自ら社長に戻りました。その前にも、伊藤忠商事から入社した澤田貴司さんを後継に指名したものの失敗している。永守さんも、後継者候補として呉文精さんを外部から招いていましたが、彼は昨年、退社しました。
孫さん、柳井さん、永守さんの共通点は、創業社長であり、さらに社内から後継者を育てることができず、外部から招くも、やはり後継に失敗しているという点です。それは、そうでしょう。カリスマ経営者であればあるほど、後継者にとっては大変です。どだい、カリスマ経営者を超えられないですものね。
誤解を恐れずにいうならば、ワンマン経営者は、誰をつれてきても、まず不満を解消できないのでしょうね。後継社長は、創業者ほどリスクをかけた大勝負はできません。俗にいえば、大バクチができませんからね。
もっとも、今回のソフトバンクのドタバタ劇は、ガバナンスの視点からも問題が指摘されています。孫さんは、ソフトバンク株式の約2割をもつ筆頭株主ですが、株総前夜にトップの心変わりで首脳人事が変更される事態は、普通、あり得ません。
とはいえ、私は、孫さんが60歳で引退する必要はない。出処進退を明らかにすること自体はまだ早い。もったいないと思いますね。サラリーマンではないのだから、60歳でリタイヤすることはないですよ。日本の経営者の中で、これほどリスクを賭けられる経営者はいないですからね