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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

なぜトヨタは総合職に在宅勤務を導入するか

やや旧聞に属しますが、トヨタは、在宅勤務制度を8月にも見直す方針という報道がありました。狙いはどこにあるのでしょうか。

総合職社員のうち、入社から数年程度経つ社員で、管理職以外、約1万3000人が対象といいます。週に1回最低2時間出社すれば、あとは自宅で仕事ができるようにする。かなり思い切った在宅勤務制度といえるでしょう。
昨年4月から、妊娠中の女性や1歳未満の子どもがいる男女を対象として導入していた制度ですが、対象を拡大するということです。
もっとも、在宅勤務や会社以外の場所で働く「e-ワーク」「テレワーク」「モバイルワーク」さらに「サテライトオフィス」や「フリーアドレス」、完全在宅型勤務の「ホームオフィス」などと呼ばれる試みは、10年以上前から、さまざまな企業が、試行錯誤しながら導入を進めてきました。

私は、パナソニックやIBMなどの取り組みを取材したことがあります。
ただ、今回のトヨタは異例ともいえる大規模な規模で導入を検討しています。実現すれば、注目度も高く、追随する企業は増えるのは間違いありませんね。

在宅勤務は、いま、黎明期から普及期に入ったといえるかもしれません。
普及が進んできた背景には、女性の活躍、男性の育児参加、介護離職を減らす、労働人口減少対策が求められていることなどがあります。さらに、ダイバーシティ、すなわち「働き方の多様化」の観点からも導入が進んでいます。働きやすい環境を整えるという意味では、優秀な人材のリテンション(引き留め)戦略ともいえます。

在宅勤務の普及が加速している理由として大きいのは、ITやIoT、ネットワーク環境など、技術やインフラの整備が追い付いてきたこともあげられます。
ネット会議はもはや日常的になりましたし、ネットワーク経由でやりとりできるデータの量も、格段に大きくなりましたからね。

さらに、生産性向上の観点からも、在宅勤務の拡大が注目されます。日本人のホワイトカラーの生産性の低さは、指摘されて久しいですね。

今回、トヨタは、これまで多かった「育児中」「介護中」といった条件とは関係なく、在宅勤務をするというんですね。狙いは、生産性向上です。
グローバル化が進み、いまや、世界中に複数の拠点を構え、相互に情報をやりとりしながら24時間体制で開発などを進めることは、珍しくなくなりました。

一方で、毎日同じ時間に通勤電車で片道1時間かけて会社に通い、決められた時間を会社で過ごすという「高度経済成長期型」のサラリーマンの働き方には、限界が訪れているといっていいでしょう。グローバル時代には、それにふさわしい働き方があるだろうということですよ。

もちろん、課題もあります。トヨタの重視する「現地現物」を、いかに継続させていくか。情報セキュリティの問題をいかにクリアするか。
トヨタに限らずメーカーは、工場を抱えています。工場で働く社員は在宅勤務が導入できない。そういったことについては、労使間の交渉をはじめ、社内のコンセンサスづくりが欠かせません。

企業からみても、社員から見ても、社会全体から見ても、在宅勤務の拡大が歓迎すべき傾向なのは、間違いありませんね。

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