出光興産と昭和シェル石油の合併に、出光創業家が反対を表明しています。経営陣と創業家の対立は、簡単には解消されそうにありません。
なぜなら、日本型資本主義の行方を問う重大な出来事だからです。
創業家が昭和シェルとの合併に反対する理由としてあげているのは、社風の違いです。
ご存じのように、出光は「大家族主義」を社是に掲げ、労働組合をもたずして、経営陣と社員が家族のように一丸となって経営を進めてきました。
創業者の出光佐三が、著書『働く人の資本主義』(春秋社)のなかで、次のように語っています。
「お互いのために自発的に自由に働いて能率をあげる人間の輪の姿が具現化した経営」
この理念からもわかるように、出光興産は創業時から、「人の輪」を大切にした日本的な経営を行ってきたんですね。
一方の昭和シェルは、外資系石油メジャーが筆頭株主で、合理主義に基づいた社風です。組合が力をもっており、合理的な働き方を奨励しています。
両社が合併することになれば、出光は「大家族主義」を貫くわけにはいかなくなる。創業者の理念も否定せざるをえない。果たして、それでいいのだろうか。
つまり、出光創業家は強い危機感をもっているんですね。
経営陣と創業家の対立は、経営陣による創業家への説明が不十分だったことが発端にあるようですが、果たして、現在、行われているトップ会談で、互いの理解が進むのかどうか。それによって、合併話は落ち着くところに落ち着くのかどうか。
というのも、今回の騒動の背後には、もっと大きな問題があるからです。
リーマン・ショック後、行き過ぎた資本主義に対する批判が高まっているのは、ご存知の通りです。
利潤追求の過程で累積した政治、経済、社会の矛盾をただすために、新しい経済モデルの構築が議論されています。
米国のトランプ現象や英国のEU離脱騒動も、グローバル資本主義が経済成長をもたらしたとしても、そこには矛盾が累積し、ポピュリズムがはびこる危うさにつながることを示していますよね。
つまり、出光の騒動のウラには、資本主義の行き詰まりという大問題が横たわっているんですね。
もとより、昭和シェルとの合併計画は、「大家族主義」を社是に掲げる出光の社風を否定するものになりますが、今回、出光のルーツを否定してまで、経済合理性で動くことが、出光にとっていいのかどうか。
出光と昭和シェルの合併計画は、「大家族主義」対「資本主義」という大問題を避けては通れません。それは、図らずも、「日本型資本主義」の行方につながります。
出光の“創業家の乱”は、今後、さまざまな論議を呼びそうです。じつは、その決着の仕方は、日本の資本主義の今後のあり方や行方にも、関係があるように思われてなりません。