少子高齢化にともなう働き手不足は、経済成長にとってマイナス要因の一つです。
企業は、女性や高齢者の戦力化を進めるなど、あの手この手で労働力不足を乗り切ろうとしています。確かに、大事なことです。
出生数が減れば、優秀な人材の絶対数が減り、企業のなかには、必要な人材すら確保できないところも出てきます。
そのため、女性や高齢者など、働く人の裾野を広げるために、仕事の内容や進め方、働く時間の検討など、働き方全般の見直しが進められています。それはそれで大事なことですよね。
その一方で、人工知能やロボットが雇用を代替する日がやってくれば、社会全体で人材が余る日がやってくるのではないか……といわれています。
経済産業省は、4月27日、人工知能やロボットなどの技術革新によって、何も対応しなければ、2030年度には国内雇用が735万人減るとの試算を発表しました。これは、労働力人口の1割強にあたります。
例えば、営業や販売職では、レジ係などがロボットにとって代わられる可能性が高いとし、60万人以上の雇用減少が避けられないとしています。
人口減少にともなう労働力不足に対応するため、企業は、人工知能やロボットの活用を進めています。その結果、労働力は不足するどころか、逆に余ってしまうかもしれません。加えて、人材管理にさまざまな影響が及ぶ可能性があります。
例えば、日本の雇用制度の特徴の一つに、終身雇用制度があります。正社員として採用した新卒者を定年まで雇い続ける制度です。
終身雇用は維持コストがかかるなどの弊害も指摘されていますが、歴史的に見て、日本企業が終身雇用のもとに発展成長してきたのは事実です。
日本企業は、終身雇用のもとに人を育て、価値観を共有しながら、他国の追随を許さない高品質の製品を高い生産性のもとにつくってきました。
ところが、今後、人の仕事の多くが人工知能やロボットにとって代わられると、早い話が、長い年月をかけて蓄積してきた匠の技や、下積みが必要とされるホテルでの接客を、一瞬にしてロボットが代替する日がやってくるかもしれないんですね。
そうなれば、人材育成や価値観の共有は必ずしも必要とされなくなるかもしれません。終身雇用は黙っていても崩壊するでしょう。
終身雇用で採用されたとしても、定年までずっと同じ職種、職務が存在するとは考えられません。
例えば、人事管理、人事評価、人材育成、給与計算、ニュースリリースの作成など、さまざまな事務処理を人工知能が扱う日は、いまや目前に迫っています。
反面、介護サービスや物流や保安など、将来的に人手不足が見込まれるサービス業にとって、人工知能やロボットは、一定の恩恵をもたらすことが期待されます。
人工知能やロボットを否定することはできない。しかし、それによって、仕事の質が大きく変わり、個人と組織の関係性が変化するなど、企業にとっては新たな課題が浮上しているのは確かなんですね。
企業だけではありません。労働集約型業務が人工知能に代替される日がやってくれば、人の仕事がより創造的なものへとシフトするのは必然です。
働く側は、いかに能力を発揮するか。より創造性の高い仕事をするにはどうすればいいか。関心をもたざるを得ないでしょう。
働くことに対する日本人の常識は、人工知能やロボットによって、大きく変わることは確かです。われわれは、人工知能社会、ロボット社会の働き方を考える必要があります。個人にとっても、企業にとっても、社会にとっても大きな課題といわなければなりません。