東京メトロ銀座線の青山一丁目駅で8月15日、視覚障害者がホームから転落して亡くなりました。同駅にホームドアが設置されていれば、事故は防ぐことができたでしょう。
視覚障害者だけでなく、酔客や病気によるふらつきからホームに転落したり、携帯電話やゲームに夢中になって列車と接触する例があとをたちません。
東京メトロ銀座線の青山一丁目駅のホームは、私もしばしば利用しますが、階段の横などはホームの一部が狭くなっていて、ラッシュ時は通行に支障を感じる人も多いのではないでしょうか。
どうすれば、事故を防げるか。
指摘するまでもなく、駅ホームからの転落事故防止の切り札は、ホームドアの設置です。
ホームドアが日本で初めて設置されたのは、1981年開業の新交通システム「神戸ポートライナー」です。
その後、交通バリアフリー法の制定などを契機に、ホームドアの設置駅は年々増え、国土交通省によると、2006年度末に318駅だったホームドア設置駅は、2015年度末までに665駅に増えました。
ホームドア設置駅数の増加により、ホーム転落事故件数が減るなど、明らかに効果が出ていますが、設置数はまだ十分とはいえません。なぜ、設置は進まないのでしょうか。
その理由は、乗車位置が固定されている既存のホームドアでは、車両扉の位置が異なる電車の対応がむずかしいほか、ホームドア設置の補助工事に一駅数億円から十数億円の費用がかかることがあげられます。
むろん、鉄道事業者にとって大きな負担です。ただ、国は、ホームドアの設置を促すため、設置費用の3分の1を補助しています。
ホームドア設置は社会的な要請で、鉄道事業者は、その要請に応えていかなければいけません。なぜなら、鉄道事業者が利用者の安全を守るのは当然ですからね。
駅ホームでの転落事故を防止できるかどうかは、企業の安全思想です。当然、諸々の条件から設置が困難な駅もあるでしょうが、経営者が安全を経営の最優先課題としてとらえ、日ごろから事故を未然に防ぐ全社的努力をしているかどうかが決め手になるでしょう。
つまり、事故のリスクを減らすために、どれだけ安全投資を進めるか。いってみれば、ホームドア設置は、事業者の経営判断にかかっています。
実際、JR東日本は、清野社長時代に山手線のホームドア設置を経営判断し、現在、山手線の29駅中24駅にホームドアが設置されました。
ホームドアを設置したからといって、短期的には、利益に結び付くわけではありません。しかし、ホームドア設置によって、転落事故が減り、列車の遅延、ダイヤ乱れなどの損失を回避できれば、その投資効果は計り知れないものがあります。
それに、ホームドアの設置に限らず、安全に積極的に投資する会社ということになれば、企業のブランド力はおのずと高められますよね。
反対に、ひとたび事故を起こせば、企業の信頼は大きく崩れることはいうまでもありません。
経営には、自社の将来を左右する重要な決断がいくつかあります。その一つが、安全に対する投資判断であることは間違いありません。
経営者が強い意思をもって安全投資を決断しなければ、人命にかかわる事故をゼロにすることはできないということでしょう。