ソニーは分社完了によって、ソニーらしさを取り戻すことができるでしょうか。
10月26日、ソニーは民生用カメラ事業、放送・業務用製品を中心としたソリューション事業、およびメディカル事業などを手掛ける組織を分社すると発表しました。
今回の分社により、今後は4つの事業子会社でエレクトロニクス部門を担うことになり、ソニーグループの主要事業はすべてグループ子会社で運営されます。
新設する100%出資の新会社は、「ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ」です。社長には、ソニー執行役で、イメージング・プロダクツ&ソリューション事業担当の石塚茂樹氏が就任する予定で、2017年4月1日の営業開始を目指しています。
12年に平井さんが社長に就任して以降、ソニーは全事業の分社化を推進してきました。
最初に分社に踏み切ったのは、テレビ事業でした。14年7月のことです。このときは、OBなどから相当の反発があったと聞きます。「売却されるのではないか」と危惧する声も聴かれました。
つづいて15年10月にビデオ&サウンド事業が分社化され、16年4月には半導体事業の完全子会社として、ソニーセミコンダクタソリューションズが設立されました。
今回の分社により、すべての事業の分社が完了したことになりますが、ソニーはなぜ、OBなどからの反発があったにもかかわらず、分社化をやり遂げることができたのでしょうか。
平井さんはもともと、音楽子会社の出身で、ゲーム子会社の社長として頭角をあらわしました。日本の会社では、子会社を本体より低くみる傾向がありますが、ソニーはそうした風土はあまり強くありません。そもそも売上高の7割をゲームや音楽などが稼いでいますからね。
「むしろ、分社のトップの方が偉いんですよ」と、あるソニーの役員から聞いたことがあります。
CFOで副社長の吉田憲一郎さんも、ソネット社長からソニー本体に復帰しました。
平井さんも、吉田さんも、「一国一城の主」の経験から、ソニーの再建には、責任の明確化で、事業を強くすることが不可欠だと知っていたんですね。
「本社に頼らず、自らの経営指標の責任を、自ら果たしてもらいたい」
と、平井さんは、6月末にインタビューしたとき、語りました。
分社されれば、強制的にPLをつくらざるを得ませんから、事業の結果責任が明確化されます。収益責任が明確になれば、大胆な経営判断を進めることができます。
ただし、分社化にはデメリットもあります。かりにも、分社化した子会社のトップが部分最適に走れば、遠心力が働きかねません。
ソニーは、分社した子会社のトップに求心力をもたせるために、月一回、事業運営会議を開くなどして、グループ全体に目配りしてもらう仕組みをつくっています。
例えば、最新技術のVR(バーチャル・リアリティ)をどのように展開していくかについては、ソニー・インタラクティブエンタテインメント社長のアンドリュー・ハウス氏だけでなく、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ社長の石塚茂樹氏、執行役副社長R&Dプラットフォーム担当の鈴木智行氏をまじえて議論し、ソニーとしての共通認識を明確にしたうえで、効果的な展開を進めています。
一方で、ソニー本体の役割はというと、グループ全体の戦略策定やR&D、新規事業創出、分社後のグループ運営支援などです。なかでも、ブランド構築やデザインは、ソニー本体の重要な役割になっていくでしょうね。
15年度は、不振続きだったエレクトロニクスが5期ぶりに黒字化を達成しました。今期は、コンスーマーエレクトロニクスの全事業において黒字化が見込まれます。
いよいよ、「平井改革」は総仕上げの時期に入ってきたといっていいでしょう。分社完了後のソニーが、「ソニーのあるべき姿」をどう実現していくか。ユニークな商品をつくりだしていくか。いや、本当に困難なのはむしろ、これからなのかもしれません。