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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

フォルクスワーゲンは生まれ変われるか

独フォルクスワーゲン(VW)は、18日、大規模なリストラ策を発表しました。昨年9月に発覚した排ガス試験の不正問題以後、初めての大きなリストラです。これは、何を意味するのでしょうか。

VWは2020年までに、世界で3万人を削減するといいます。うち、2万3000人はドイツ国内のVWブランド乗用車部門が対象です。
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VWといえば、トヨタと世界販売台数一位の座を争っていますよね。
ここで、ちょっと両社を比較してみましょう。トヨタの2016年3月期の営業利益率は10%です。これに比べて、VWの15年の営業利益率は、不正問題に関連する特別項目を除いてもわずか6%ほど。トヨタに遠く及ばないんですね。
利益率が低い原因の一つが、多くのブランドを抱えるVWのなかでも、VWブランド乗用車部門の利益率の低さです。ちなみに15年通期は、同特別項目を除いて2%に過ぎなかったんですね。

今回のリストラの対象として、VWブランド乗用車部門が大半を占めるのは、利益率の足を引っ張るVWブランド乗用車部門を立て直すことが目的なのは間違いありません。
ドイツは、労働者の権利が大きく、解雇しにくいといわれます。そのなかで、VWは、危機をキッカケに大規模リストラに踏み込んだわけです。

発表によれば、一連のリストラによって国内で年間30億ユーロのコスト削減効果を見込みます。一方で、国内で35億ユーロをEV(電気自動車)やコネクテッドカーなどにあてる。EV関連で国内に9000人の雇用も創出するとしています。
EVへと大胆に舵を切れるのも、危機があったからこそといえるでしょう。

間違いないのは、VWは、今回の危機をきっかけに、VWブランド乗用車部門を中心に大規模な改革を行いたいと考えていることです。まさしく、危機こそチャンスですからね。

ただ、ドイツを代表する巨大自動車メーカーVWが、一気に改革を推し進められるかといえば、話はそれほど簡単でも、単純でもありませんよね。
報道によれば、同部門のトップは、「ヒエラルキーをなくし、強い会社になる」といっています。しかし、数千人規模のIT企業ならまだしも、50万人以上を抱える製造業のVWが「ヒエラルキーをなくす」ことは、もう至難の業でしょう。

危機感はわかりますが、正直、きれいごとに聞こえますよね。いや、そう考えても、簡単に実現できるとは到底思えません。
工場を動かし、数万点の部品を間違いなく組み立てて大量のクルマを生産する限り、ヒエラルキーは避けられない。
IT企業のようなフラットな組織で、従業員みんなが自由な発想で仕事をしていても、優れたクルマはつくれませんよね。

それでも、従来のVWの在り方を突き崩し、新しい姿に生まれ変われる可能性があるか。
それが、あるんですね。IoTをうまく生かした組織や仕組みを構築すれば、VWも“稼ぐ力”を身につけることができるのではないでしょうか。

ご存じのように、近年、AIやIoTの出現によって、製造業は大きく変化しようとしています。
VWが今回、リストラ策やヒエラルキーの撤廃を語る背景には、それこそドイツ発のIoTを生かした「インダストリー4.0」があるはずです。
その成否が、VWの今後の明暗を分けるのではないか。

危機を契機に、新しい製造業の形を構築することができるならば、数年後、VWは、いまより数段強い企業に成長を遂げているかもしれませんね。

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