パナソニックは、コーヒーショップでも始めるの。まさか……。
パナの「コーヒーサービス事業開始」の報を聞いたとき、一瞬そう思いましたよね。聞けば、もっと新しい、流行りの言葉を使えば“IoT”を使ったビジネスモデルでした――。これは、いったいどういうことでしょうか。
コーヒー豆を焙煎する「スマートコーヒー焙煎機」、生豆のパッケージ、そして、「焙煎プロファイル」をセットにして販売するサービス、「The Roast」がそれで、この4月から開始の予定。
まず、肝心の「スマートコーヒー焙煎機」です。業務用の焙煎機の技術をもつイギリスのベンチャー企業イカワ社と技術提携したうえ、パナソニックが調理家電で培ってきた、食材加熱制御やセンシング、材料・コア技術を組み込んでいます。その価格は10万円。
「私もいくつも家庭用の焙煎機を試してきましたが、技術的に、これまでまともにコーヒー豆を焼ける機械は世の中になかったんですね。初めて試作機をお借りしたときに、“あ、これはもう、時代が変わるな”と思いました」
とは、発表会の席上、デモンストレーションを行った焙煎士の後藤直紀さんのコメントです。
生豆は、長年コーヒー生豆の輸入事業に注力してきた石光商事から仕入れる仕組みで、焙煎機とセットで、パナソニックのショッピングサイトで販売する。200グラム(約16杯分)のパックの3種セット(5500円/月)と2種セット(3800円/月)のいずれかを選択すると、毎月、世界各地から厳選された豆が家庭に自動的に送られてくる。
焙煎プロファイルは、日本で唯一、「World Coffee Roasting Championship(焙煎世界大会)」の優勝経験をもつという豆香洞コーヒーオーナーで、前出のコメントの後藤直紀さんが作成。iPhoneやiPadに対応する無料アプリで、生豆に最適な「プロファイル」を選択すると、焙煎機が自動で、後藤さんの作成した通りの加減で豆を焙煎してくれる仕掛け。
焙煎工程には、「蒸らす」「煎る」「冷ます」などがあるが、じつは、これらの工程の温度管理や時間の管理は、1度、1秒単位で行われている。それを、作成されたプロファイル通りに、焙煎機がキッチリ再現してくれるのだ。あとは、お好みで挽いて、コーヒーを淹れる、という流れですね。
自宅にいながら、世界一の焙煎士の豆で淹れたコーヒーが楽しめる。しかも、コーヒー豆は焙煎後に時間が経つと風味が薄れますが、焙煎したての新鮮さとなれば、コーヒー愛好家にはたまらないでしょうね。
パナソニックは、2013年に、白物家電などを扱うアプライアンス社の事業開発センターを立ち上げ、15年1月に新しい食のサービスに取り組みはじめました。今回の「The Roast」は、その新しい食のサービス事業、第一弾なんですね。
アプライアンス社事業開発センター所長の岩井利明さんは、記者の質問に答えて、次のようにコメントしました。
「厳選された食材と匠の技をいかし、最後の仕上げはパナソニックの調理家電が担当する。そのトータルとして、極上のものに仕上がるものについて、第二弾、第三弾を検討したいと思っています。私の思いとしては、和食系で何かやりたいなと思っています」
これまでも、パナソニックは、クラウドを使った家電に取り組んでいます。家庭用植物工場では、水量や栄養分、温度などをクラウドで自動管理する実証実験を行っているんです。「The Roast」もまた、パナソニックの家電で培ってきた技術とIoTやクラウドなどネットワークを使ったサービスを融合させた、新しいビジネスなんですね。
パナソニックは近年、単なる製造業を脱し、サービスを提供できる企業に生まれ変わろうとしています。食のサービス事業は、IoT家電の試金石になるのではないでしょうかね。