稀勢の里、ついに優勝しましたよね。
初土俵から15年目、ようやくの幕内優勝です。昨日の千秋楽、横綱白鵬を抑えた一番は、日本中が思わず歓声をあげましたよ。横綱昇進は確実で、19年ぶりの日本出身力士ですよね。
さんざん指摘されてきたように、稀勢の里は、これまで、あと一歩のところで何度も優勝を逃してきた。綱取りのかかった大事な場所で、調子を崩すんですよね。実力はあるといわれながら、精神的な弱さを指摘されてきました。
負けても、期待を裏切られても、日本人力士だからこそ応援してきたファンは多いのではないでしょうか。
ちょっと強引かもしれませんが、稀勢の里と同様、期待を裏切られ続けているのに応援しているというか、してしまうのが、三菱重工のリージョナル・ジェット機「MRJ」です。どういうことか。
MRJの初号機の納入が、2018年半ばから20年半ばにずれ込む見通しといいます。5度目の納期延期です。08年の事業化決定当初は、13年の初号機引き渡しを計画していましたから、計7年遅れです。
私は、この遅れについて、ほぼ予想していました。三菱重工業のトップは、米国で米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得することについて、軽くみていたと思います。
問題は、FAAの安全性基準にあります。これを満たすのは容易ではありません。じつは、ホンダはホンダジェットを米国で開発、生産していますが、FAAの型式証明を取得するのに想像を絶するような苦労をしました。
ですから、MRJは、証明を得るのに優に数年はかかると見ていました。そうしたら、案の定ですよね。三菱重工業は、ホンダジェットのトップから、米国での型式証明取得がいかに困難を伴うかということについて、レクチャーを受けたと聞いていますが……。
航空機に求められる安全性は、自動車などの産業に比べてケタ違いに高い。FAAの型式証明取得には、何百という詳細なレポートを提出することが求められます。実験データをとるための実験設備、量産するための生産設備などにも、すべてFAAの認定が必要とされる。航空機産業が、“レギュレーティッド・インダストリー(統制産業)”と呼ばれる所以なんですね。
そもそも、なぜ国産旅客機が、米国の安全性基準を満たす必要があるかといえば、世界の航空産業を牛耳るのが米国だからです。
実際、FAAの型式証明を取得できれば、FAAと並ぶ事実上の国際標準規格といわれる欧州航空安全庁(EASA)をはじめ、各国・地域の認定は、比較的簡単に取得できるといわれます。
逆に、FAAの認定を受けなければ、市場は格段に狭くなる。
例えば、中国国有企業が開発・生産する「ARJ21」は、FAAの認定を取得しておらず、販売したり運行できる国が一部の新興国に限られている。世界市場で勝負しようとすれば、FAAの型式証明取得は、避けられないんですね。
ご存じの通り、日本は戦後、国産旅客機の開発を、長い間行ってきませんでした。MRJは、約半世紀ぶりの国産旅客機となりますが、航空機づくりにまつわる多くのノウハウは国内から失われており、開発はゼロからのスタートだったといっても過言ではありません。
皮肉なようですが、救いは、MRJの部品の多くが米国産ということです。航空機産業には、部品一つに至るまで、素材の産地にまで遡るほどの厳しい安全性基準があります。したがって、MRJは、多くの部品を、すでに基準を満たしている米国産に頼っているんですね。
MRJが、仮にも日本産の部品でつくられた航空機であったならば、トランプ政権のもとでは、さらなる試練があったかもしれません。
20年半ばという今回の計画もまた、期待を裏切られることになるかも……。
それでも応援したくなるのは、稀勢の里を応援するのと同じですね……。