米国の自動車市場は、現在年間約1770万台で、中国市場に次いで世界二番目の規模です。日本メーカーは80年代以降、現地に工場をつくって雇用をし、生産を行ってきました。ホンダや日産は、いまや、国内以上に米国での生産台数が多い。
ところが、米トランプ大統領は、就任早々、とんでもないことばかりいっていますね。
日本との自動車貿易については「不公平」と断言しました。“日米自動車戦争”の宣戦布告ですよね。
もっとも、トランプさんの大統領選中の発言を見れば、就任した時点で、ゴタゴタと落ち着かない4年間が始まることは、わかっていたよね。いまさら、その言動に一喜一憂してバタバタしても仕方がない。ここは、慌てないことだと思いますね。
まず、米国の日本車叩きは、いま始まったことではありません。ご存じのように、1980年代にも、1990年代にも、日本車は米国でさんざん叩かれました。米国の自動車メーカーが苦境に陥ると、日本車のせいにされる。もはや、お決まりのパターンです。ハンマーで日本車が叩き壊される様子を、テレビで何度も、目にしてきましたよね。
トランプさんの主張は、これまでの通商摩擦と同じです。日本車は米国で売れているのに、米国車は日本で売れていない。その「貿易不均衡」を正せという。
90年代の通商摩擦のときには、あまりに日本市場で米国車が売れないので、GMの「シボレー・キャバリエ」をトヨタが「トヨタ・キャバリエ」として輸入販売していました。そこまでしても、あまり売れなかったと記憶しています。売れたのは、せいぜい数万台ではないでしょうか。
市場を開放せよ、といいますが、すでにほぼ開放されているといっていい。米車の輸入に対する関税はゼロですからね。問題は、むしろ、米国メーカーが、日本市場で売れるクルマをつくらないことにある。
では、なぜ、つくらないか。日本は、市場が成熟しているうえに、数が売れるのは小型で儲からないクルマばかり。そんなクルマ、米国メーカーはわざわざ開発しないのです。ちゃんと開発しているベンツやBMWは、日本市場における販売台数を伸ばしていますよ。
米国は、景気がいいと、ピックアップトラックやバンがどんどん売れる。ところが、景気が落ち込んだり原油が高くなると、今度は一気に、小型の燃費のいいクルマが売れる。その繰り返しです。米国メーカーは、この波のなかで、分が悪くなると日本車を叩いてくるのです。
日本メーカーにしてみれば、またか……という印象を持っていると思います。危機の時代の到来ですが、日本メーカーはこれまで、危機のたびに強くなってきました。その成果が、米国市場での日本車の30%以上のシェアです。トランプさんは、それが気に入らないんです。厳しい時代かもしれませんが、今回もまた、日本メーカーは知恵をしぼって、したたかに生き残っていくしか道はありませんね。