Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

サムスン経営トップ逮捕の衝撃

サムスン電子副会長で、事実上のグループトップを務める李在鎔(イ・ジェヨン)さんが、逮捕されました。

※ソウルのサムスン電子ビル

私は、2005年秋、韓国の龍仁にあるサムスン人力開発院で開催された「サムスンHRカンファレンス2005」にパネリストとして招かれ、そのとき、李在鎔さんとビジネスランチや立ち話をする機会がありました。気配りの人、という印象を受けましたね。

当時、李在鎔さんは37歳でしたが、御曹司にふさわしいオーラを発していました。物腰は柔らかく、貴公子然としていましたね。その点、父親で二代目トップを務める李健煕さんの威圧感のあるオーラとは、まったく違うタイプといえるでしょう。

李在鎔さんは、ソウル大学卒業後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で修士号を取得。ハーバードビジネススクール経営学博士課程を修了しています。英語はもちろん、日本語もじつに流暢です。

サムスンの二代目、李健煕(イ・ゴンヒ)さんが14年5月に急性心筋梗塞で倒れてから、そろそろ3年が経ちます。以前も書きましたが、韓国の文化からいって、親が生きているうちに、子が親をさしおいて会長に就くということは考えにくい。

しかし、ビジネスがグローバル化するなかで、CEOの長期不在は、コーポレートガバナンスの観点からは大きな問題です。そこで、3年を節目として、李在鎔さんが会長に就任するのではないかといわれてきました。実際、昨年10月に取締役に就任するなど、布石といえる動きをしていましたよね。

ところが、そのシナリオが狂った。昨年のサムスン製のタブレット「ギャラクシーノート7」の電池発火事故に続き、今回の逮捕です。いまや実質サムスントップの李在鎔さんの逮捕は、サムスンにとって、電池発火事件以上のピンチと考えていいでしょう。社内の危機感は相当なものだと思います。

じつは、サムスンは過去にもトップが起訴されています。二代目会長の李健煕さんは、05年には違法政治献金、07年には相続にまつわる不正が発覚し、08年に在宅起訴されて、約2年間にわたって会長職を離れていた。09年夏には有罪が確定しました。ところが、同年12月に「国家的観点から」特別赦免を受け、翌10年3月にサムスン電子会長として復帰しました。

特別赦免の背景には、李健煕さんがIOC委員を務めていたことがあります。

当時、韓国は、2018年冬の平昌オリンピック誘致に取り組んでいた。サムスンはオリンピックの公式スポンサーでもありました。どうしてもオリンピックを誘致したい国の思惑があったといわれます。李健煕さんは、IOCの顔役でしたからね。実際、無事に平昌オリンピックを誘致できましたよね。

さて、李在鎔さんの、朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人崔順実(チェ・スンシル)被告への贈賄容疑が、今後どうなっていくか、まだ見えません。しかし、サムスンの持株会社化を進める「企業統治改革」や、李健煕さん後任人事が途上のサムスンにとって、李在鎔さん逮捕の衝撃は大きい。スマホ発火事故がようやく落ち着きそうだったのに、不運かな、タイミングも悪い。

韓国経済において、いまもっとも大きなリスクは政治リスクです。幸い、サムスンは、半導体などの業績がよく、いますぐ、ただちに経営が揺らぐような事態にはならないでしょう。

しかし、李健煕さんの赦免の例からもわかる通り、サムスンの将来は、韓国の次期大統領に誰が就任するかに大きく左右されるでしょう。サムスンのピンチは、間違いなく続きます。

<関連記事>
サムスンの車載部品メーカー買収は成功するか
『サムスン・クライシス』は現実に!
サムスンは“下山”を開始した
サムスン3代目バトンタッチの課題
サムスン・クライシス④ サムスンの社員は幸福か?
サムスン・クライシス③ ポスト李健煕はどうなるのか
サムスン・クライシス② コーポレート・ガバナンスの実際
サムスン・クライシス① なぜ人材を引き抜くのか

ページトップへ