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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ソニーから巣立った「VAIO」が中国へ再進出

8月1日、VAIO株式会社は、都内で新社長経営方針説明会を開催しました。

ご存じのように、2014年7月にソニーから独立したVAIOは、15年6月に就任した双日出身の大田義実社長のもと、15年度に黒字化を達成しました。収益構造を安定化させたことで、VAIOは構造改革の第1弾を終え、今後3年から5年の長期戦略を「成長戦略」と位置づけて、新たな出発の緒についたといっていいでしょう。

※VAIO新社長に就任した吉田さん

VAIOは、今年6月に、新社長に日本ビクター(現JVCケンウッド)元社長の吉田秀俊さんを迎え、さらなる事業拡大を目指します。説明会の冒頭、吉田さんは次のように語りました。
「私のミッションは『VAIO』ブランドの企業価値を4年先、5年先を見据えて高めることだと考えています」

独立してからの3年間、VAIOはB2Cのイメージが強かったPC事業を、法人向けの販売体制や営業体制、保守・メンテナンス体制を確立して立て直してきました。法人向けPCの販売は、14年から16年にかけて倍増したといいます。

また、「AIBO」で培ったロボット製造技術を活かし、15年からVAIOブランドによるEMS事業(電子機器の製造受託)の立ち上げを行いました。博報堂から昨年12月に発売された、ぬいぐるみと対話ができる「Pechat(ペチャット)」や、今年5月に予約が開始されたトヨタのロボット「キロボミニ」などがそれです。

昨年度、EMS事業を黒字化させたことで安定軌道に乗ったVAIOは、吉田新社長のもとで新たな成長戦略を打ち出しました。それが、3年前に撤退した、中国市場への再進出です。

中国市場でアライアンスを組むのは、中国のインターネット通販大手「JD.COM」です。同社の2016年の売上高は約10兆円。中国でのPCの販売が、VAIOの成長戦略に大きく寄与することは間違いありませんね。

※中国で販売が開始されるノートPC「VAIO S13(写真中央)」

中国で販売が予定されているのは、法人向けの「VAIO Zクラムシェルモデル」と「VAIO S13」。VAIOは、PCの液晶とキーボードの間にペンを挟み込んで液晶を閉じる「ペンはさみ試験」や「落下試験」、「埃試験」など、徹底した品質試験を行っています。製品は、出荷前の全数国内検査、いわゆる“安曇野FINISH”で高品質が保証され、ハイエンドモデルで中国に挑みます。

さらにVAIOは、PC事業とEMS事業で培ったノウハウを活用して、第3のコア事業である「VR(バーチャルリアリティ)ソリューション事業」に参入します。VRサービス事業に取り組む株式会社ABALと組んで、法人向けにVRのハード・システムの導入・保守、コンテンツ制作など、ワンストップのソリューションを提供し、VRを新たな事業の柱に据えるというわけですね。

課題はスマートフォン事業なんですね。日本通信とVAIOが共同で開発した、「VAIOフォン」は売れ行きが伸びず、日本通信は数十億の特別損失を計上しました。

「(VAIOは)人間としては標準体重になった感じですが、筋肉体質にはなっていませんから、これからもっと筋肉体質にして高収益にもっていくような流れを作っていきたい」
と、吉田さんはコメントしました。

VAIOは、少数精鋭だからこそできる結束の強さと奇抜な発想で、ソニー時代にはなかった、新しい「VAIO」ブランドを築き始めたといっていいでしょうか。

その意味で、ソニーから独立し、自立を成し遂げたVAIOから学ぶことは少なくない。日本企業の不採算事業立て直しのロールモデルとして、VAIOは好事例といえるかもしれませんね。

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