昨年8月に、東京電力とソニーが組んで家電一括管理をする……と聞いたときには、意外な組み合わせに驚いたのを記憶しています。当時「早ければ来年にも運用」とされていましたが、言葉通り1年で運用開始にこぎつけましたね。
※川崎氏と(左)と十時氏
東京電力の傘下の東京EP(東京電力エナジーパートナー)とソニーモバイルコミュニケーションズは、7日、「おうちの安心プラン」の提供を開始すると発表しました。会見の冒頭、両社社長の川崎敏寛氏と十時裕樹社長は、次のように挨拶したんですね。
「これまで当社は電気をお届けすることで、お客様の暮らしやビジネスを支えて参りました。しかし、機器が最適に連動して動作することで、より快適で便利な生活を送れる可能性が高まりました」(川崎氏)
「ソニーモバイルでは、ハードウェアをベースに事業展開してきましたが、これからはよりお客さまのニーズに合ったものを提供するために、ハードウェアだけでなく、お客さまへの理解、生活に密着した、お客様が本当に求めているサービスにフォーカスしていくことが大事だと考えております」(十時氏)
東電EPは、「TEPCOスマートホーム」を展開する。サービスのコンセプトは、「家が、家族になる」。プランの一つが、ソニーと手掛ける「おうちの安心プラン」なんですね。ソニーモバイルが開発した、家のなかに設置して家電と通信するスマートハブや、スマートタグ、センサーなどを使う。例えば、子どもにタグを持たせると、「○○ちゃんが帰宅しました」などと、専用アプリを介して外出や帰宅をスマートフォンに知らせたり、ドアの開閉の確認、子どもからの親の呼び出しなどができる。
今後、タッチ操作が可能なプロジェクターの「エクスペリアタッチ」やLED電球スピーカーなどのソニーのスマートデバイスと連携したり、家電の遠隔操作、空間演出など機能を拡充する予定という。
※ソニーモバイルが開発したスマートハブ
月額は税抜き3280円。ハブやセンサーの設置作業料同18000円(2年間の利用で無料)、設置事務手数料同3000円。スマートタグ1個あたり同4320円です。
このほか、東京EPは、単独で「遠くても安心プラン」を提供する。離れて暮らす家族を見守るサービスだ。分電盤にセンサーを取り付け、家電の使用状況を専用サイトから確認できる。暑い日にエアコンが使われていないなど、いつもと様子が違う場合には通知が入り、心配なら訪問確認を依頼できるんですね。こちらは月額税抜き2980円。設置作業量や事務手数料は同額です。
東電がこれらのサービスに取り組む背景には、「分電盤の先」があるんですね。東電はこれまで、電力会社として、安定した電力を家庭に届けるところまでを担ってきた。しかし、昨年4月以降の電力小売りの全面自由化により、新電力との競争が激しくなっている。サービスを分電盤の先にまで伸ばし、家庭のなかに入り込みたいんですよ。
ソニー側の背景には、新規事業の活性化があるでしょうね。ソニーモバイル社長の十時さんは、同時にソニー本体が注力する新規事業の担当でもあります。東電との提携は、新規事業を拡大するチャンスです。また、「おうちの安心プラン」は、ソニー社長の平井一夫さんが収益を安定させるために掲げている「リカーリング型ビジネス」、つまり経常的に利益をあげられる分野でもあります。
もっとも、サービスが成功するかどうかは未知数。まずもって、月額3280円を、どう見るか。正直、現段階のサービス対価としては、高い印象を受けます。2000万件の顧客を抱えるとされる東電EPは、他社から電力を購入する顧客を含めて全国にサービスを展開し、「早期に数十万件規模」を目指すと鼻息が荒い。しかし、そんなにニーズがあるのか。また、かりに10万軒にサービスを提供したとして、単純計算で月3億2800万円の売上となりますが、果たして採算をとっていけるのか。さらなる成長戦略を描けるのか。
競合他社も多いですからね。家のIoT化、家族の見守りサービスなどは、通信や家電各社の参入が相次いでいますものね。
成功のカギは、どこまでオープンにしてつながる商品を増やし、他社と差別化できるかという、サービスの充実度なのは間違いない。異色のタッグは成功するか。「東電×ソニー」の意外性だけでは、顧客はついてきませんわね。