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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日本政府はEVブームに乗りおくれた?

いま、世界では、“EV(電気自動車)ブーム”が一気に沸き起こっていますよね。この背景には、何があるのでしょうか。

火付け役ともいえる米テスラは、先月、普及価格帯の「モデル3」を、鳴り物入りで発売しました。アップルやグーグル、国内ではDeNAなど、IT企業のEV参入はかねてから相次いでいます。電機メーカーでも、掃除機で有名なダイソンは、高級自動車メーカーの英アストンマーティンラゴンダ幹部を採用したことなどから、EV開発に乗り出したのではないかとウワサされています。

EVをめぐっては、電池メーカーも活況です。テスラと組んで米ネバダ州にメガファクトリーをつくったパナソニックをはじめ、GSユアサも好調。電池の素材メーカー、駆動用モーターのメーカーなど、EV関連の企業は“ブーム”に乗っている。この波を掴もうと、台湾のEMS世界大手でシャープの親会社、鴻海精密工業は、EVやコネクテッドカーを成長分野として米国に新たに研究開発拠点を設けるといいますからね。

“ブーム”の背景には、各国政府のEV政策、ひいてはエネルギー政策が指摘できます。独フォルクスワーゲンをはじめとする欧州の自動車メーカーは、ディーゼル車の排ガス不正問題以降、EVシフトが鮮明です。国が後押しする形で、例えばドイツはEV購入時に4000ユーロ(約51万円)の補助金や充電設備拡充促進など、自動車メーカーと折半で総額10億ユーロ(約1285億円)の予算を投じる計画です。

フランスとイギリスは、2040年までにディーゼル車とガソリン車の販売を禁止すると表明。いやでもEV開発に拍車がかかります。

さらに、中国です。EVを国策として進め、EV購入時に車種によって4万元以上(約70万円)の補助金をつけるほか、自治体の補助金、さらに税金を優遇しています。自動車メーカーに対して、EV、PHVなど新エネルギー車の販売台数比率の義務化を検討するなど、いってみれば、“国家主導”のEVブームといってもいい状況でしょう。

この流れのなか、7月、スウェーデンの自動車メーカー・ボルボは、19年以降すべての新モデルをEVもしくはHV(ハイブリッド車)などの電動車両にすると宣言。同社は、スウェーデンと西ヨーロッパ、中国での販売台数が全体の7割近くを占めますから、その決断はうなずけなくはありません。

さて、では、日本政府はどうか。じつは、ハイブリッド車やEVの普及が欧米に先行していたこともあって、現在の世界的ブームに乗ってEVを積極的に推進している印象はありません。むしろ、EV購入時の補助金や充電設備拡充促進などの予算額は、欧米や中国に見劣りします。ちなみに、充電インフラ整備事業費補助金の予算額は、今年度、昨年度より7億円減の18億円と、ドイツが17~20年に3億ユーロ(約385億円)を投じるのとはケタ違いに少ない。

というのは、日本は、EVよりも水素社会の実現を掲げてFCV(水素自動車)の普及にせっせと取り組んできましたからね。2020年東京五輪は、「水素社会の見本市だ」といってきた。そのウラには、トヨタのFCV「ミライ」の市販車として世界初の発売があります。つまり、政府の力の入れようの背景に“トヨタありき”ですかね。

ところが、ここにきて世界的にEVシフトが一気に鮮明化してきた。世界の隆盛は、いまや圧倒的にEVです。その点、日本では、FCVを次世代車の本命としてきただけに、トヨタやホンダのEVの開発の遅れが指摘されていますが、実際、日本には世界初のEV量産車「リーフ」を2010年に発売した日産があるにもかかわらず、国はEVを積極的には後押ししてこなかったんですよね。これは、トヨタと日産の政治力の差ですかねェ……。

日産は、近いうちに新型「リーフ」を発売する予定ですが、どこまで市場に受け入れられるかが注目されます。

考えてみれば、欧米が原発政策に消極的だった時期に、東芝を巻き込んで、原発を国策として推進したのと似た構造といえますかね。

五輪と絡めて、国策として「水素社会」を推してきた手前、日本政府は“EVブーム”に乗りおくれたといっても、簡単にEVへカジは切れないでしょう。このまま五輪が終わるまで待っていては、取り返しがつかないことになりませんかねェ……。

 

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