まあ、こうなるしかなかったのですかね。私は、どこに売るにしろ、米ウエスタンデジタル(WD)と話し合って決着をつけるしかないと、これまで書いてきましたが、それにしてもずいぶん遠回りをしましたよね。
東芝は、半導体事業の子会社である東芝メモリの売却について、WD陣営に、独占交渉権を与える方針です。WD陣営は、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、産業革新機構、日本政策投資銀行などです。今後、細部を詰めて、9月中にも最終契約を結ぶことになりそうです。
WDは、独占交渉権を得られれば、東芝を相手取った複数の法的措置を取り下げるのは間違いないでしょう。そうなれば、東芝メモリ売却に向けて動き出す。それは、東芝の上場維持に向けて、一歩前進といっていいでしょう。
それにしても、時間の浪費でしたよね。
これまでの経過を振り返ってみましょう。東芝が、メモリ事業の売却を決めたのは今年2月。4月には同事業を分社化し、5月には2次入札まですませて、6月には、米ベインキャピタル、韓国SKハイニックス、そして産業革新機構などの「日米韓連合」と優先的に交渉するとしてきましたよね。
ところが、16年に東芝の合弁先だったサンディスクを買収し、東芝の身内であるWDは、これに「まった!」をかけた。東芝のメモリ事業売却は契約違反として法的手段に訴えたんですね。
これに対して、東芝は報復措置として、WD社員の四日市工場への立ち入り禁止や情報遮断、さらにWDに対して東京地裁に訴訟を起こすなど、両社の関係は完全にこじれた。
この係争は解決が見えず、当初6月末としていた売却契約の締結はどんどんずれ込んだ。かくして、売却先候補は、一転、二転。8月10日の会見では、綱川さんの口から、日米韓連合のほかに、台湾の鴻海精密工業やWDなど、次々と名前があがるありさま。結局、しびれを切らした支援銀行からタイムリミットを突き付けられ、WDのもとのサヤに、戻ることになったという次第ですか。
その間、不思議なのは産業革新機構の動きです。5月にはWDとの連携で協議していたはずが、6月には米ベインやSKハイニックスと「日米韓連合」に加わり、結局のところは、WD陣営に加わって現在に至っています。ウラはどうなっているんでしょうか。
それにしても、はじめから遠回りせずにWDと話しをつけていれば、これほどまで切羽詰まった状況にはならなかったのでは……と、思わざるを得ません。
順調にWD陣営への売却契約に至ったとして、独禁法の審査は3月末に間に合うのか。債務超過の解消にたどり着ける保証は、まだありません。東芝メモリにとっても、つねに技術開発や巨額投資が求められる半導体業界にあって、このたびの時間の浪費が、命とりにならないとは限らない。綱渡りは、まだまだ続きますね。