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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ゴーン流マネジメントからの脱却へ

日産自動車は17日、無資格の従業員が完成検査をしていた問題で、問題の原因分析や再発防止をまとめた報告書を国土交通省に提出しました。

報告書を読むと、補助検査員や作業員らによる完成検査の実施は、「多くの車両工場では、1990年代には、すでに常態化していたとみられる。なお、栃木工場では1979年から実施されていた可能性もあることも判明した」とあります。

また、問題の原因と背景については、完成検査員の不足、完成検査制度に関する規範意識の薄さ、上位者の認識、標準作業書と完成検査票の齟齬、基準書と実態のかい離、基準書の不明確さ、現場と管理者層との距離、内部監査で不備が発見できなかったことがあげられています。

さらに、検査員になるための試験では、試験問題と答えを一緒に配ったり、教材を見ながら受験させたり、答案の提出後に間違いを直して再提出させたりといった不正があったことが明らかにされています。

※日産社長兼最高経営責任者の西川広人氏

同日、横浜市内の本社で記者会見した社長の西川広人氏は、次のように述べました。
「あらためて深くお詫びを申し上げます。私の責任は現在の混乱からの挽回につきます。挽回策を進めることが一番の責務だと考えています」

ご存じのように、日産は1999年、経営難からの立て直しに向けて、ルノーの支援を仰ぎました。ルノーから最高執行責任者として日産に送り込まれたのが、現会長のカルロス・ゴーン氏です。

問題の背景に、2000年から今年3月まで社長を務めたゴーン流の効率最優先の経営の影響はなかったのかどうか。必達目標「コミットメント」を掲げるゴーン氏の経営手法が今回の問題につながったと考えることはできないのかどうか……。

ゴーン氏はなぜ、日産の謝罪会見に出てこないのかという疑問が出るのは当然としても、今回の件で、ゴーン氏の責任について聞いても、答えられないでしょうね。

実際、西川氏は、カルロス・ゴーン氏の責任について、「ことが起きたのは、書面で確認できる1989年よりももっと前からの認識です」と述べ、ゴーン氏の責任はないという見方を示しました。少し苦しい答弁でしたからね。

西川氏は、購買部門の出身で、ルノーとの共同購買を推進してきたゴーン氏の“腹心”です。西川氏にしてみれば、“ゴーン流マネジメント”を否定することはできませんよね。今回の不正は別にして、そもそもゴーン氏は日産の“救世主”であったのは間違いないですからね。

会見でも、西川氏は「ゴーン経営がどうのこうのではない」と語り、“ゴーン流マネジメント”を肯定してみせました。

考えてみれば、コストカッターといわれ、“コミットメント経営”を推進し、経営破綻した日産をV字回復させたゴーンさんの経営手腕は、高い評価を受けてきました。

確かに、その通りだと思いますね。ルノー日産、そして三菱自動車を合わせて、年間販売台数は1000万台でビッグスリーの一角を占めるまでになりました。しかし、その過程でムリがあったのは間違いありません。

私は、かねてから自動車メーカーは、1000万台を超えようとすると、必ず躓くといってきました。GM、トヨタ、フォードは、いずれも1000万台の壁にぶちあたりました。日産も同じです。自動車メーカーには、1000万台の販売台数を超えたときのオペレーションもマネジメントもまだ、開発されていません。1000万台を達成しようとすると、必ずどこかでムリが生じるんです。

西川氏は、現場が必達目標を達成するために無理をしたと、その可能性を示唆したんですね。

「上意下達の風土が強い工場などでは、数字が独り歩きしやすい」と、記者会見の場で述べました。

そうなんですね。現場というのは、ムリだと思っても、あからさまに“上”に対して反対しません。そのかわりに往々にして面従腹背やら何らかのサボタージュで対応するのはよくあることです。

つまり、現場は面と向かってモノがいえないと、そうせざるを得ない……というか。苦しい立場に立たされますからね。

組織の上に立つ者は、そのことを知らなければいけない。管理が甘かったといわざるを得ません。

西川氏は、“ゴーン流マネジメント”を否定しませんが、“ゴーン流マネジメント”の限界を指摘したのではないでしょうか。

現場に無理な数字を示し、それを必達目標として守らせようとすれば、再び同じことが起きる可能性があります。

西川氏は、会見の席上、こう語りました。
「私の使命は、過去を断ち切り、事業を正常化させることです」

西川氏に求められるのは、日産の信頼の回復です。時代が変わるなかで、求められるのは、ズバリ、“ゴーン流マネジメント”から脱却し、“西川流マネジメント”を確立することではないでしょうか。

ゴーン氏はこの件についてどうコメントしているかという記者からの質問に対して、西川氏は、次のようにコメントしました。
「あなたの責任で、あなたのやり方でやりなさいといわれている」

ゴーン氏が会見に姿を見せないことについては、ゴーン氏の思慮が伺えます。西川氏にすべてを任せているのはもちろんですが、かりにも、ゴーン氏が公の場で発言をすれば、“西川日産”はダメになると考えているに違いありません。

ここは、西川氏にとって正念場です。立て直しに向けて全力を傾けるしかありませんね。

ただ、このことは、日産にとって大きなチャンスでもあります。

2兆円の有利子負債を抱えた日産に、なぜ、ゴーン氏が送り込まれたのか。日本人では到底、立て直しができなかったからです。

その意味で、西川氏がこの難局を乗りこえ、日産を立て直すことができれば、日産は初めて日本の経営者の手で、再生を果たしたことになります。

果たして、日産は信頼を取り戻せるのか。厳しい目が向けられているのは確かですが、困難を乗り越えられるかどうか。まさしく、日産にとっても、西川氏にとっても、正念場であることは間違いないでしょう。

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