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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタのEV戦略のキーパーソンは?

トヨタは、いよいよEV開発に本格的に乗り出します。その推進役を担うのが、トヨタ副社長の寺師茂樹さんです。

昨日、トヨタは、2030年に電動車両を単体で550万台以上販売を目指し、25年ごろまでに全車種に電動車を設けると発表しました。エンジン車のみの車種はなくなるということですね。内訳は、EVとFCVを合わせて100万台、PHVとHVを合わせて450万台です。


※トヨタ副社長の寺師茂樹さん

ここのところ、トヨタはEV開発の動きを本格化させています。9月には、マツダ、デンソーと電気自動車の共同開発を目指し「EV C. A. スピリット」を設立。先だってはパナソニックとEV用角形電池事業の提携開始を発表しました。背景には、先日も書いた通り、世界の急速なEVシフトがあるんですね。

いま、世界の大手自動車メーカーは、中長期的なEV戦略を次々と発表しています。たとえば、米GMは、23年までに少なくとも20車種のEVまたはFCVを投入する方針です。独VWは、25年までに80車種、30年までに全300車種以上でEVまたはPHVを投入予定です。ルノー日産アライアンスは、すでに50万台のEV販売実績をもちますが、22年に販売予定の1400万台の約3割を、EVやHVなど電動車にする計画です。

これまでEVにあまり積極的ではなかったトヨタも、ここにきて、中長期的なEV戦略を公表したというわけですよね。

先だっても書いた通り、車の電動化のコア技術は、モーター、バッテリー、PCU(パワーコントロールユニット)といわれます。このうち、トヨタにはモーターやPCUに関しては、HV(ハイブリッド車)で培ってきた技術的蓄積がある。一方、HV技術の延長線上にない電池をどうするかは、課題だったんですよね。

昨日、説明に立ったのは、前出の寺師さんです。この人が、トヨタのEVなど電動化の旗振り役なんですね。彼は、パナソニックとの提携について、次のように発言しました。
「電動化は電池がカギになります。先日のパナソニック様との協業発表で、われわれに唯一欠けていた電池という大きなカギ、ピースが揃ったというふうに考えています」
乗用車用車載電池で世界シェア1位のパナソニックとの提携によって、EVにアクセルを踏む準備が整ったわけです。

寺師さんは、トヨタのEV開発のキーパーソンなんですね。前出の「EV C. A. スピリット」の代表取締役を務めています。

1年ほど前、寺師さんにインタビューした際、「とにかく、EVを早くつくらなくてはいけない」と話していたのが印象的でした。「EVの開発は、私がやりたいくらいだ」といっていましたね。念願かなってというべきか、EV開発の陣頭に立つわけです。ここからも、トヨタの本気度がわかりますね。

寺師さんは、2010年にトヨタがテスラと提携し、北米で「RAV4 EV」の開発を行っていたとき、現地で、プロジェクトに携わっていました。テスラの技術者たちのモチベーションの高さや、意思決定の速さ、実行力などを肌で感じ、後れを取ってはならないという危機感を、強くもっているんですね。

さて、トヨタは、電動車の販売550万台を目指すにあたり、電池だけで、研究開発、設備投資を含めて1兆5000億円規模の投資が必要になるといいます。うち半分以上は、生産にかかわる投資だといいます。電池は装置産業ですから、大量生産するとなれば、設備費は膨れ上がりますからね。

車載用電池といっても、HVとEVの電池は異なります。例えば、「プリウス」に搭載されている電池の容量は0.75kWhなのに対し、日産のEV「リーフ」の電池は40kWh。テスラ「モデルS」の上級グレードに至っては、100kWhの電池を搭載しています。トヨタは、現状、電動車を年間約150万台販売していますが、これを550万台にし、しかもEVを投入するとなれば、これまでの何十倍、何百倍もの電池が必要になるんですよね。これは、大変なことです。

世界的にEVシフトの潮流は強まっていますが、いつまでに、どれくらい普及するかという予想は、さまざまな数字があり、はっきりわかりません。ただ一つ確かなのは、EVの普及は、電池の性能やコストに大きく左右される。すなわち、電池次第だということです。

トヨタは2020年代の前半に、全固体電池を開発するとしています。実現するならば、それが、EV普及に向けたブレイクスルーになる可能性もあるでしょう。

寺師さんは昨日、「なぜいま、EVの開発に積極的になったのか」という記者の質問に答えて、次のようにコメントしました。
「これまで、EVには遅れていない、技術はあるといい続けてきましたが、電池の課題を乗り越えるストーリーが立たなかった。電池はいくらでもつくれる、どんどん安くなるという前提のビジネスモデルは、トヨタでは考えられない。自分たちでHVの電池をつくってきたし、大きな電池のストーリーが構築できたところで、いつごろからわれわれの考えるEVが出せるのか、メッセージをきちんと出していこうということです。『それでもまだ、EVは出てないじゃないか』というご指摘は、甘んじて受けましょう、ということになります」

確かに、トヨタはまだEVを発売していません。商品化の面では、他社に後れをとっているのは事実です。

しかし、EVはいま、普及期の直前にあります。その意味で、大きく見れば、まだ、各メーカーはほぼ横一線といっていい状況です。開発競争は、これからが本番ですね。

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