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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

幸福書房と村田眼鏡舗に見る世の流れ

身辺雑記になりますが、ショッキングなニュースが続いたので、ちょっと書いてみたいと思います。

私は、代々木上原に事務所を構えて30年になります。仕事柄、書籍を購入することは多いのですが、たいていの本は、代々木上原駅前の「幸福書房」で購入してきました。何しろ、いついっても開いているんです。朝8時から夜11時まで、年中無休。コンビニ並みです。そんな本屋はここしか知りません。

決して大きな本屋ではないんですが、よくメディアにも取り上げられ、有名なのでご存じの方も多いのではないでしょうか。小説家の林真理子さんが常連さんで、幸福書房で林さんの本を買ってお願いすると直筆サインがもらえる「林真理子の聖地」であることも知られていますね。

※幸福書房店主の岩楯さん

決して品数が多いわけではないのに、なぜかほしい本は、必ずといっていいほど棚に並んでいるのです。本当に不思議な本屋さん。話題になる本は、専門書に近いものでも置いてあります。本に対する目利きは尊敬に値します。店長の岩楯さんとも、30年の付き合いですよ。いつもツケ払いで本を買わせてもらっていたんですよね。

ところが、昨年末、岩楯さんから、2月末で店を畳むと知らされました。衝撃でした。「応援するから頑張ってよ」と口をついて出ましたが、「いやいや、もう69歳になるし、長時間の営業はこたえるんですよ」とおっしゃるのを聞いて、それ以上かける言葉は見つかりませんでした。


※幸福書房外観

人口減少社会に加え、ネットのニュースや電子書籍が広まり、さらにアマゾンを初めとするネット通販の台頭するなか、町の本屋さんは次々と廃業に追い込まれています。そのなかでも、独特のセンスで持ちこたえてきたのが、幸福書房だった。それがなくなるというのでは、世の町の本屋さんは、どこもやっていけないのではないかと心配になります。

ちなみに、『週刊文春』(1月18日号)の林真理子さんのエッセイ「夜ふけのなわとび」は、幸福書房に触れてありました。店を閉じると聞いて「思わず泣いてしまった」と林さん。私も泣きたい気分です。

さらに、泣きたいニュースは続きました。縁あって、長年、メガネをつくってもらっていた日本橋の村田眼鏡舗こと眼鏡舗村田長兵衛商店が、3月20日をもって閉店するというんです。江戸時代より前から京都で御所の御用を勤めた鏡師で、1615年に江戸で創業。日本橋室町に眼鏡店を構えたのは1872年。日本で最初のメガネ専門店だといいます。

皇室御用達。伊藤博文、夏目漱石、島崎藤村も客だったという名店が、400年以上、営々と続いてきた店を畳むという。送られてきた書状には、「現当主が逝去して事業の承継が困難となり、それとともに永年培ってきた技術の継承ができなくなりました」とあります。技術を誇りに続けてこられた眼鏡店です。これもまた、かける言葉が見つかりません。

モノにあふれ、豊かで便利な時代になりました。いまや、スマホを操れば、ネット経由であらゆるものが注文できる世の中です。でも、幸福書房も村田眼鏡舗もない世の中は、果たして本当に豊かなのか。幸せなのか……。考えざるを得ません。それでも、世の流れには、逆らえないということでしょうか。

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