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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

DNAを伝える「パナソニックミュージアム」

パナソニックは、今日、創業100周年を迎えました。この節目に合わせ、門真にパナソニックミュージアムをオープンし、9日から一般公開します。


※松下幸之助歴史館入口。幸之助さんの像が立つ

ミュージアムには、四つの役割があるといいます。一つ目は、従業員への理念の継承の場。二つ目は、ビジネスパートナーや得意先に考え方やDNAを伝え、共有する場。三つ目は、世界のパナソニック製品ファンに、幸之助さんの考え方を理解してもらう場。そして四つ目に、地域に開かれた場です。

ミュージアムは、三つのエリアから構成されています。一つは、創業者である松下幸之助さんの歴史をたどる「松下幸之助歴史館」。もう一つは、モノづくりのDNAを伝える「ものづくりイズム館」。そして、「さくら広場」です。

「松下幸之助歴史館」は、今回新しく建てられた建物です。1933年、幸之助さんは、当時大開町にあった本店を、現在までパナソニックの本丸である門真に移しました。そのときの「第三次本店」とまったく同じ場所に、当時の建物に忠実な建物を復元したんですね。

幸之助さんは、「第三次本店」の建設の際、外観デザインや材料の選定などにこだわり、細部まで自ら指示してつくらせた。例えば、屋根には、パナソニックの針路を決める本店の使命を象徴するという「舵輪」が設置されています。入口横のステンドグラス丸窓は、当時のものが、いまも使われている。幸之助さんのこだわりから、その人となりや考え方が垣間見えます。当時から植えられていたというカイヅカイブキは、いまや巨木に成長していました。

歴史館には、幸之助さんの幼少期から、創業、パナソニックの発展を経て世を去るまでの一生が、七つの章に分けられ、展示されています。目玉は、旧歴史館から移築してきた「創業の家」です。創業当時の建物と作業風景が、幸之助さん、妻のむめのさん、義弟の井植歳男さんの人物モデルによって再現されているんです。照度まで再現したといいますから、徹底的にこだわってつくられているんですね。


※幸之助さんの人物モデル(正面)。奥は妻・むめのさん

見ると、薄暗い、いかにも昔風の日本家屋ですよ。幸之助さんは、この質素な部屋から、一代で家電王国のパナソニックを築き上げた。幸之助さんは、「経営の神様」と同時に、偉大なアントレプレナーとしていまも信奉者は多いですが、その企業家としての原点です。パナソニックの誠実、実直な企業風土というか、メンタリティが滲み出ているように感じましたね。創業者の謦咳に触れた世代が社内からいなくなるなか、幸之助さんを身近に、生身の存在として感じられるようにする工夫を感じましたね。

「モノづくりイズム館」は、50年前、創業50周年記念の際に建てられ、昨年まで、「歴史館」として使われてきた建物です。いまは、パナソニックの歴代の商品が収蔵庫に並べられ、展示されています。さらに、パナソニックの新旧の商品群が、「思いやり」「感動」「安心」「新定番」「家事楽」「自由」の六つのテーマごとに分けられ、展示されています。

いちばん奥には、巨大スクリーンに8Kの解像度でデジタル映像が流れる「ヒストリーウォール」があります。100年の歴史を、絵巻のようにスクリーンで一望できるんですね。さらに、「歴史館」と「モノづくりイズム館」では、光IDを利用し、9か国語に対応する多言語翻訳を常設化するなど、パナソニックの最新の技術も生かされています。


※ヒストリーウォール(8K常設映像・横16m×縦2.2m、636インチ)

「さくら広場」は、従来設置されていたフェンスを取り除くなど、地域に開放されました。広場の奥に隣接して、33年に門真に本社・工場を移した際、幸之助さんの住居として設けられた建物「門真旧宅」があります(限定公開)。


※幸之助さんの門真旧宅

いま、日本の製造業は大きな変化の荒波のなかにあります。そのなかでパナソニックは、モノづくりに加えてコトづくりとか、サービス、B2Bソリューションなど、従来の製造業の

枠を超えて、さまざまな分野に挑戦を続けています。社長の津賀一宏さん自身「パナソニックは何の会社なのか考えている」という状態のなかで、原点を明確にし、モノづくりのDNAをはっきりと示すことで、見えてくるものはあるに違いありません。

会社は社会の公器であるという幸之助さんの理念を継承し、「100年後にも、その時代の社会課題を解決する商品を、パナソニックは出したい」と、取締役常務執行役員の石井純さんは、記者の質問に答えてコメントしました。

パナソニックミュージアムは、ノスタルジーに浸る場ではありません。もっといえば、単に幸之助さんの歩みを振り返る場でもありません。DNAの継承は重要ですが、急速な変化を続ける社会や経済環境に対応するためには、それだけでは不十分です。幸之助さんの理念や考え方を、現代にあった形で捉えなおし、次の時代をリードする製品へと昇華させていくことが求められます。つまり、パナソニックミュージアムは、それを、これからの世代が考えるための場です。

二股ソケットの会社からは、現在のパナソニックを想像できないように、100年後、パナソニックは、われわれの想像をこえた会社となっているはずです。「日に新た」という言葉通り、これからもパナソニックは変わり続けていく。だからこそ、ミュージアムをつくる意味があるのではないでしょうか。

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