欧州では今月から、自動車事故発生時の自動緊急通報システムの新車への装備が義務化されました。欧州では、通称「eコール」と呼ばれるシステムです。ロシアでは、昨年から同様の装備が義務化されています。日本は、普及の遅れが指摘されているんですよね。
先月28日、独部品メーカー大手のボッシュは、コネクテッドデバイスとソリューションに関するイベントを東京本社で行いました。その席で、後付け可能な「eCallアダプター」を展示、説明しました。クルマのシガーソケットに機器を差し込むと、スマートフォンと連携し、「eコール」による緊急通報サービスが受けられるというものです。
※ボッシュ・ジャパン社長のクラウス・メーダーさん
まず、ボッシュのビジネスは、全体の約6割がモビリティソリューション事業、残り4割がエネルギー、ビル、消費財事業などです。しかし、プレゼンテーションの冒頭、ボッシュ・ジャパン代表取締役社長のクラウス・メーダ―さんは、次のように語りました。
「地域別に見ると、ボッシュはアジア太平洋地域のビジネスが約3割を占めます。この地域は、なお成長を続けています。日本におけるビジネスは、グローバルとは異なり、87.5%がモビリティソリューション、12.5%が残りの事業となっています」
つまり、日本市場はモビリティソリューション事業の比率が高いんですね。
ボッシュが注力するモビリティソリューション事業のひとつが、「eコール」です。ボッシュは、同サービスを、世界40か国以上で展開していて、国内では2016年から提供しています。コールセンターも、埼玉県に設置しているんですね。
ボッシュの「eコール」は、クルマに搭載された機器の加速度センサーが衝突を感知して、自動的に緊急通報を行います。クルマが強い衝撃を受けると、スマートフォンのアプリでクルマの現在位置情報などを、アジア全域をカバーするフィリピンのデータセンターを通して埼玉県にあるコールセンターに伝達する。コールセンターのオペレーターは、警察や消防など関連機関に通報する仕組みです。
同時に衝突の分析が行われ、比較的大きな事故と判断された場合には、オペレーターが運転手のスマートフォンへ連絡を取り、救急車の出動や故障車の回収が必要かどうかを確認します。運転手が応答しない場合などは、ただちに救急隊が派遣されるシステムです。
※コールセンターのオペレーターのモニター画面
緊急通報の際、救急センターなどの関係機関に、どのような情報を伝えるか。例えば、クルマのモデル、色、燃料種別などは重要です。クルマにどのような燃料が使われているかは、火災や爆発の危険があるかを判断する上で、大変貴重な情報です。ボッシュの「eコール」は、こうした情報を、瞬時に救急センターなどに飛ばすことができます。
「現場でクルマを見つけるに当たって、救急隊の方は色を非常に重視します。『赤なんですか? 黒なんですか? 白なんですか? それをいってくれないとクルマを探せないじゃないですか!』といわれます。色を伝えることで、非常に早くクルマを見つけることができるんです」
とコメントしたのは、ボッシュサービスソリューションズ株式会社代表取締役の鴨川哲也さんです。
「統計によれば、事故が起きた瞬間から救急隊が駆けつけ、患者さんを搬送して病院で医療を受けられるまでの平均時間は38分です。それを、緊急通報サービスを受けることによって、17分ほど短縮することができます。大量出血の大事故の場合、38分の経過時間で約83%の患者さんが亡くなります。それを17分短縮することによって、そのうちの7割の患者さんを救命することができます。それほど1分1秒が大事なタイミングになるんです」(鴨川さん)
※ボッシュの「eCallアダプター」を差し込んだラジコン模型
日本においては、日本緊急通報サービスが、00年から「ヘルプネット」と呼ばれる緊急通報サービスを提供しています。トヨタ「T-Connect」、ホンダ「インターナビ」などのサービスの一つという形です。15年からは、この3社は、ドクターヘリの出動を判断して手配するシステムの試験運用も行っています。しかし、クルマに後付けすることによってサービスを利用できるものはなく、すでに販売されたクルマが緊急通報サービスを利用する手段はありませんでした。
その点、ボッシュの「eCallアダプター」は、すでに販売済みの車両のニーズを取り込めるわけです。ボッシュとしては、「eCallアダプター」をつけてもらえれば、常時、そのクルマの位置情報や加速度、ハンドル操作などの情報を得ることができます。
事故を起こしてしまった際、さまざまな事情から「通報してほしくない」人は、じつは意外と多く、緊急通報サービスの普及の障壁になっているともいわれます。しかし、自動運転やコネクテッドカーの普及に伴って、日本でも今後、緊急通報サービスは間違いなく普及していくでしょう。“走る情報端末”クルマが生むデータの奪い合いは、ますます熾烈化するのは間違いありません。