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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

ボッシュ・グループの事業戦略

6月6日、ボッシュは渋谷本社で年次記者会見を行いました。ボッシュ・グループは、2017年に全世界で781億ユーロ(1ユーロ129円換算で約10兆円)を売り上げ、過去最高を記録しました。


※ボッシュ日本法人代表取締役社長のクラウス・メーダーさん

「我々を取り巻くビジネス環境は大きな変革期を迎えています。コネクティビティ、ネットワーク化によっていろいろな業界が変化しつつあります。特にモビリティの分野では、コネクティビティの他に、自動化、電動化、モビリティ・サービスのトレンドがここ数年で大きく変化しました」

と、ボッシュ日本法人代表取締役社長のクラウス・メーダーさんは会見の冒頭語りました。

とくに目覚ましい発展を遂げているのがアジア太平洋地域で、この地域の売上高は前年比14%増の約3兆円に達しました。

国内に目を向けると、17年の日本における第三者連結売上高は前年比10%増加の約2950億円で、ボッシュが注力するモビリティ分野のパワートレイン関連や、自動車安全技術への需要に応えた製品の取引拡大が売り上げ増加につながったといいます。

とりわけ、自動運転、コネクテッドカー、電動化といったホットな話題を集める領域に関して、ボッシュは13年のフランクフルトモーターショーで3本柱として発表し、いち早く力を注いできました。

例えば、自動運転の分野では、自車位置推定技術が重要なステップのひとつになります。ボッシュは、「ボッシュ ロード シグニチャー」といわれる、車載レーダーとカメラを使用した高精度マップの、自車位置推定のために使われる地図の構成要素の開発や、衛星測位システムを使用した自車位置推定技術(Vehicle Motion and Position Sensor:「VMPS」)の開発に取り組んでいます。

VMPSは、大量の降雪や積雪など、レーダーやカメラでは周辺状況の検知が難しい状況でも、衛星測位システムを用いて高い精度の自車位置推定ができるといいます。

ボッシュ自動運転システム開発部のゼネラルマネジャー、千葉久さんによれば、現在の自車位置推定の精度は、「VMPS」で誤差50センチ、「ボッシュ ロード シグニチャー」で10センチ程度まで高精度化しているといいます。

コネクテッドカーに関しては、以前、「ボッシュの緊急通報サービス『eコール』とは」と題した記事で紹介した通り、シガーソケットに後付けできる、自動車事故発生時の「自動緊急通報システム」について紹介があったのに加え、事故発生時の車両状態を記録する「Event Data Recorder(EDR)」のプレゼンテーションが行われました。

「EDR」は、事故発生時の車両の状態を記録する機器です。

クルマのエアバッグに搭載された「EDR」のセンサーが、事故相当の衝撃を検知すると、その時点から約5秒前にさかのぼって〝プレクラッシュデータ〟といわれる、ドライバーのクルマの操作状態やクルマのシステムの制御状態、クルマの動作状態などを時系列で記録します。

加えて、〝ポストクラッシュデータ〟と呼ばれる、事故が起きてから収束するまでの250ミリ秒から2000ミリ秒のデータを、「前後衝突」、「側突」、「横転」といった事故状態に合わせて抽出することができます。

〝プレクラッシュデータ〟には、車速はもちろんのこと、ステアリング操舵角、エンジン回転数、ブレーキのかかり具合、エアバッグの動作状況、運転席と助手席のシートベルトの装着状況に至るまで、さまざまなデータがあります。

「EDR」は、事故発生時の車両の状況を知るための重要なデータが保存されており、航空機でいえば、「フライトレコーダー」のような存在といわれています。アメリカでは12年の9月から連邦法規として「EDR」を搭載している車両に関しての読み出しの義務化が行われており、データ読み出しツールを市販していなければいけないといいます。

同様にヨーロッパ、中国が読み出しの法規化に取り組んでおり、日本でも、2020年をめどに記録装置搭載の義務化を含む制度整備のための大綱が3月に取りまとめられました。既に、日本では自動車5メーカーのエアバッグに「EDR」が搭載されています。

このEDRからデータを読み出すツールが、「Crash Data Retrieval(CDR)」と呼ばれる機器です。エアバッグに搭載された「EDR」の記録を、ケーブルを介して「CDR」で読み出す。自動車メーカー、損保会社、警察組織などが、事故原因の特定や先進安全システム、さらには自動運転技術などに利用するといいます。


※ボッシュの「CDR」

電動化に関しては、eモビリティ(EVやハイブリッド車など)と内燃機関の両輪でいくといいます。ボッシュはこれまで電動化に莫大な投資を行ってきました。こんにち、ボッシュの部品を搭載した電動化車両が、世界各国で80万台走っているそうです。時代の流れに沿って、EV化が進んでいくことは間違いない。

一方で、ボッシュはディーゼルエンジンを含む、内燃機関の開発にも手を抜くことはありません。ボッシュは、2025年時点でのハイブリッド車およびEVの新車登録は2000万台なのに対して、同時期のガソリン車やディーゼル車は同8500万台と予測しています。25年の時点で、レシプロエンジンの需要は旺盛だと見ているんですね。

ボッシュのディーゼル技術を搭載した車両は、1km走行あたりの窒素酸化物(Nox:ノックス)排出量が13gと、2020年にヨーロッパで導入される規制値を大きく下回ります。ボッシュにとっても、ディーゼルエンジンは依然重要であることが、このことからもわかります。

「100年に一度の大変革の時代」を、世界一の自動車部品メーカーであるボッシュは、いかに乗り越えようとしているのか。目が離せませんね。

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