西日本豪雨は、中国地区の自動車業界に少なからぬ被害をもたらしました。直接被害がなかった工場も、従業員の安全確保のほか、道路の通行止めなどで部品の供給が滞り、操業停止を余儀なくされました。
※三菱自動車の池谷光司副社長執行役員CFO
三菱自動車では、軽自動車などを生産する、岡山県倉敷市の水島製作所が一時、操業停止に追い込まれました。工場そのものには大きな被害はなかったものの、周辺地区および取引先が被害に見舞われたためです。
水島製作所は、7月7日から操業休止と再開を繰り返し、16日から通常操業に戻りました。
愛知県岡崎市の岡崎工場でも、部品調達が滞り、一時、SUV(スポーツタイプ多目的車)「エクリプスクロス」の生産を止めました。
三菱自動車副社長の池谷光司氏は、「極力、影響が出ないようにしたい」と、7月24日に開かれた2018年度第1四半期決算報告の席上、語りました。
西日本豪雨発生から2週間が経過し、被災した取引先は復興に向けて歩みを進めていますが、想定外の雨量と浸水、土石流の被害への対応はままならない現状があります。通常通りの体制に戻るのは、時間が必要です。
「被災された取引先には、金融支援を実施しました。258社に部品の購入代金など計109億円を前倒しで支払いました」と、池谷氏は説明したうえで、次のように語りました。
「2年前、大変ご迷惑をおかけしたにもかかわらず、支えていただきました。恩返しとして取引先をしっかり支援していきたい」
〝2年前〟とは、2016年4月に発覚した燃費データ不正問題です。
三菱自動車の取引先の多くは中小企業で、ともすれば、燃費不正問題が引き金になって、資金繰りや雇用が危うくなることは十分に考えられました。実際、不正でブランドは傷つき、17年3月期の国内販売は8万台におちこみました。しかし、苦しい状況にあっても、取引先は三菱自動車を支えたんですね。
振り返ってみれば、トヨタもまた、東日本大震災で被災したトヨタディーラーに真っ先に手を差し伸べました。販売車両の仕入れのために、資金を無利子ないしは低利で融資する仕組みを緊急に整備したんですね。
取引先との強い連携は、日本の製造業の競争力の源泉といえます。
自由競争が原則の欧米諸国は、こうした関係性を〝異質〟とし、しばしば批判の目が向けられますが、しかし、取引先との信頼関係を前提にしたリスクのシェアは、日本ならではの美徳といえないでしょうか。
池谷氏の「恩返し」の一言が持つ意味は、小さくありません。苦境を支えてもらったことへの取引先への感謝だけでなく、その言葉には、三菱自動車が次の一歩を踏み出すにあたっての力が込められているように思います。