Loading...

経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

マツダの「モデルベース開発」とは

マツダは20日、モデルベース開発(MBD)についての説明会を行いました。

モデルベース開発とは、わかりやすくいえば、コンピュータによるシミュレーション技術を駆使して開発対象を「モデル」化し、その「モデル」をベースとすることで、開発を効率化する手法です。

モデルベース開発は、一般的に、シミュレーションを駆使した開発手法を指していわれることが多く、自動車産業のほか、システム開発などで用いられ、注目されています。

※マツダ常務執行役員の人見光夫さん

「各社、モデルベース開発はやっていますが、会社によって解釈や定義は違うと思います。モデルベース開発をより深め、広げて考えているという意味では、われわれがいちばん進んでいると思います」

説明会の席上、マツダ常務執行役員でシニア技術開発フェロー技術開発所・統合制御システム開発担当の人見光夫さんは、記者の質問に答えて、そうコメントしました。

では、マツダのモデルベース開発とは、何なのか。

例えば、エンジンではどうか。エンジンには、ガソリン、ディーゼル、大型、小型など多くの種類があります。そして、通常の運転に比べ、過度運転では、スロットル開度、吸気S-VT、排気S-VT、吸気量、燃料噴射量、点火時期などを最適化しなければNOxが増えてしまうため、一つひとつ調節が必要です。

しかし、すべての種類のエンジンについて、一つひとつ最適値を探して調節していると、エンジンの種類が増えるほど工数も莫大に増え、人も時間もお金も、いくらあっても足りません。

そこで、例えば2リットルエンジンと1.3リットルエンジンで、エンジンの「燃焼特性」を同じにして「モデル」化する。このモデルを基盤として開発することで、それぞれのエンジンの最適値を探したり、調節したりする手間を大幅に減らせるわけです。

通常、共通化によるコスト削減といえば、「部品」の共通化など、ハードウェアの共通化が多いですが、マツダは、エンジンの「部品」ではなく「特性」を共通化した。

本来、2リットルエンジンと1.3リットルエンジンは、まったく異なるエンジンと考えていましたが、それを「同じもの」と考えられるように「特性」を共通化して「モデル」化したことによって、開発工数を減らすことができたんですね。

異なると考えていたものを、共通の最適値を定めて同じものと考えられるようにすることを、マツダは「コモンアーキテクチャ」と呼びます。モデル化するためにはコモンアーキテクチャが欠かせません。

モデル化やコモンアーキテクチャを実行するためには、エンジンでいえばスロットル開度、吸気S-VT、排気S-VT、吸気量、燃料噴射量などのさまざまな要素を「数値化」する必要があります。デジタル化ですよね。

それによって初めて、コンピュータを用いた机上のシミュレーションができる。徹底的にシミュレーションし、考え抜いてからモノをつくることで、試作車をつくる回数も減らすことができます。

実際、マツダは、シミュレーションを駆使したモデルベース開発とコモンアーキテクチャ適用によって、車両試作台数が4分の1になったといいます。

「CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)を駆使することで、すべてのエンジンが同じようなものだと考えて一気に開発するとか、トランスミッションやエンジンの組み合わせが変わると別物だと考えていたところを、ロジックをつくって一気にやってしまうなど、効率的に、試作まで減らしてやろうという部分では、いちばん進んでいると思います」
マツダのモデルベース開発について、人見さんはそう説明しました。

自動車は、安全技術や環境技術など、搭載される技術や機能が増える一方です。資源は限られるなか、開発しなければならない技術は増えていく。いかに効率的に、多品種少量を開発、生産するかが問われる。そのなかで、モデルベース開発の力は、企業の開発力に直結します。

マツダは、モデルベース開発について、「多岐にわたる自動車開発をマツダの規模で実行するために重要な『開発哲学』である」といいます。マツダは2000年代、業績不振から開発リソースが危機的状況にまで減少した。そのなかで効率的な開発を突き詰め、考え抜いた末、独自のモデルベース開発にたどり着いたんですね。

マツダのモデルベース開発は、トヨタ、マツダ、デンソーが共同で設立した「EV C. A. スピリット」でも、電気自動車のコモンアーキテクチャを開発するために、駆使されているといいます。

マツダは今後、車両だけでなく、「人」や「外部環境」なども「モデル」化し、モデルベース開発の領域を広げる方針です。

さらに、サプライヤーや関連会社と「モデル」を共有すれば、開発スピードや効率が上がる。また、産官学が連携することで、世界的な自動車開発競争のなか、産業全体の開発力強化が期待できるといいます。じつにスケールの大きな話なんですね。

もっといえば、モデルベース開発が有用なのは、自動車産業に限らないでしょう。

製造業では、大量生産大量販売の時代は終わりつつあり、多品種少量、カスタマイズの時代が始まっています。そのなかで、企業の開発や生産の体制が、大量生産大量販売時代のままでは、顧客のニーズに応え続けることはできません。時代に適応するためには、デジタル化を進め、コンピュータを駆使して、効率的な組織、開発、生産体制を早急に整え、新しい手法を確立しなければいけません。

マツダのモデルベース開発は、ポスト大量生産大量販売の時代の開発手法として、一つの有力な解といえると思いますね。

ページトップへ