パナソニックは、外食産業の現場のソリューション提供に、いよいよ中国市場から切り込みます。
10月28日、北京に、中国の火鍋チェーン最大手、海底撈(ハイディーラオインターナショナルホールディングス)の自動化店舗1号店がオープンします。店舗のバックヤードを担う「自動おかず倉庫」は、パナソニックと海底撈の合弁会社が納入したんですね。
パナソニックは今年5月、海底撈と、合弁会社のインハイホールディングスをシンガポールに設立。さらに、インハイHDの100%子会社として、中国事業を担う北京インハイスマート自動化科学技術有限公司(以下、北京インハイ)を北京に設立しました。
北京インハイは、海底撈の業界知見とパナのロボティクスや画像認識技術を掛け合わせ、バックヤード業務の自動化を進めます。さらに今後は、物流センターの自動化にも取り組み、製造、物流、販売まで、エンドツーエンドのソリューションを推進していく方針です。
※海底撈董事長の張勇さん(左)とパナソニックCNS社社長の樋口泰行さん
まず、海底撈とはどんな会社でしょうか。中国を中心に、香港、台湾、さらにシンガポール、米国、韓国など100以上の都市に363店舗を構え、約5万人の従業員を抱えます。日本にも、池袋や新宿、幕張、大阪・心斎橋に店舗があります。先月、香港証券取引所に上場するなど、近年急拡大中の企業です。
中国の海底撈の平均的店舗のイメージは、フロア約700平米、バックヤード約300平米の計1000平米ほど。100人以上の従業員がいて、24時間365日営業しています。ちょっと、日本では考えにくいほどのスケールです。
火鍋ですから、客は、席にある端末から食べたい具材を選んで注文します。通常の店舗では、従業員は、バックヤードでそれらの具材の乗ったおかず皿を選びとり、トレーに載せて、注文した客の席まで届けます。
では、「自動おかず倉庫」とは何か。どういうことをするのか。
まず、倉庫内は、0度~4度と冷蔵庫の温度にキープされ、人はおらず、ロボットだけが動いています。客が端末から注文すると、自動車の生産ラインにあるようなアームロボットが、びっしりと並んだ倉庫の棚からおかず皿を選び取り、組み合わせてトレーに載せるんですね。
これを実現しているのは、お皿についたRFIDタグです。タグを使うことで、将来的には、製造の段階から、物流、さらに配膳まで、一貫して商品を管理することが可能になります。すでに、材料の盛り付け時刻などのデータをチェックし、賞味期限切れの商品を出さないよう管理できます。「自動おかず倉庫」によって、人が携わらないため、異物混入などのない衛生的な管理と省人化を実現し、配膳ミスなどの人的ミスも排除します。
※「自動おかず倉庫」の模型。ロボットがずらりと並ぶ
それにしても、会場に展示されたモデルに加え、動画を見ましたが、ロボットがずらりと並び、お皿をトレーに並べる様は壮観です。CNS社社長の樋口泰行さんは、実物を見て「鳥肌が立った」といっていましたが、SFチックというか、未来的な光景ですよ。
ご存じの通り、パナソニックは近年、B2Bビジネスに注力しています。なかでも、樋口さん率いるCNS(コネクティッドソリューションズ)社は、店舗や物流倉庫などの現場のソリューションを主なターゲットにしています。国内では人出不足解消のニーズがあることに加え、省人化、自動化のニーズは、世界中のあらゆる市場でありますからね。
モノが動く現場は、擦り合わせが必要で、マネされにくい。だからこそ、パナソニックに商機があるというわけです。外食産業の現場のソリューションは、樋口さんのいうところの「ラストワンマイル」のソリューションであり、一つの顧客に深く刺さり、エンドツーエンドでソリューションを提供することができます。
海底撈董事長の張勇さんは、24年前に同社を創業しましたが、当時から、松下幸之助を尊敬しているといいます。
「外食産業は、非常に非効率が多く、業務プロセスは、正直、数千年前とやっている作業は同じというくらい原始的です。21世紀に入った2018年に、ついに外食産業を画期的に変える一つの光が見えてきたと感じています。次世代の技術を用いながら、旧態依然の外食産業のコスト構造、業界構造そのものを根本的に革新する大きな目標をやっていきたい」
とコメントしました。
樋口さんは、次のようにコメントしました。
「当初、パナソニックは遅い、スピード感が全然ないというふうにずっといわれていました。パナソニックの中のいろんなルールを無視し、必死で中国スピードに食らいついていく。そうしないと、日本企業は生き延びられない。海底撈だけでなく、中国全体の外食産業の自動化に取り組むことができたら、望外の喜び。日本が遅いなら、中国を土台に、何か新しいプラットフォームをできればと思っております」
いまや、中国市場は世界最先端市場です。中国市場に食い込むことは、今後の世界展開を考えるうえで、大きなアドバンテージになります。その意味で、今回の自動化店舗1号店は、パナソニックにとって、外食産業のソリューションビジネスの試金石です。成功すれば、その先に海底撈の既存店舗約370店舗があります。海底撈は、今後、5000店舗まで拡大するという野心をもっていますから、夢は大きい。
パナソニックは、EVメーカーのテスラと組んだのと同じように、海底撈とがっちりとタッグを組み、中国の外食産業を開拓していくことができるでしょうか。
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パナソニックのCNS社の取り組みについては、拙著『パナソニック、「イノベーション量産企業」に進化する!』第二章で取り上げています。ぜひご一読ください。