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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

「東京モーターショー2019」は、成功か

10月24日から、東京ビッグサイト、メガウェブ、シンボルプロムナード公園などお台場一帯で行われた「東京モーターショー2019」が、11月4日に閉幕しました。

日本自動車工業会は、会長の豊田章男さんの旗振りで、「来場者100万人」を掲げていました。結果、来場者は130万900人。東京モーターショーの会期は12日間ですから、1日平均10万8000人以上が訪れた計算になります。


※ダイハツブース

開会前、章男さんは東京ディズニーリゾートの来場者を引き合いに出していましたが、東京ディズニーリゾートの来場者は1日平均約9万人ですから、モーターショーはディズニーを超えたことになります。来場者数からいえば、大成功といっていいでしょう。

実際、ある関係者は、フランクフルトモーターショーの事務局から、東京モーターショーの来場者増についてインタビューを受けたといいます。フランクフルトに限らず、世界のモーターショーが、東京モーターショーに学ぼうとするでしょう。

何度か書いてきたことですが、東京モーターショーは、今年、大きく変化しました。従来、モーターショーといえばワールドプレミアのお披露目が何台あるかや、出展社数を競う場であり、モータースポーツファンや、クルマオタクで賑わう場でした。

しかし、国内の自動車市場は縮小しており、これまでと同じ顧客をターゲットにしていたのでは、来場者数は減るばかりです。実際、欧米先進国のモーターショーは、フランクフルトやデトロイトを始め、どこも地盤沈下が進んでいる。SNSなどを駆使すれば、ショーに出展しなくても新車のPRはできますから、各社、モーターショーへの出展意欲が下がっていることもあげられます。

したがって、自工会としては、「東京モーターショーも、変わらなければ生き残れない」と考えたわけですね。

今回の東京モーターショーは、ターゲットを、従来のクルマ好きだけでなく、若者や子連れのファミリー層など、一般大衆に広げた。

具体的には、キッザニアなど子ども用のブースを設けたほか、アイドルグループやお笑い芸人などを呼んで、イベントやトークショーを行った。eスポーツや、ドローンレースなども開催し、エンタテインメント性を高めたんですね。ダイハツのブースなど、いかにも子ども向けでしたし、トヨタはブースに自動車を展示しなかったほどです。

「モーターショーは、右肩下がりできてくれる人が減ってきました。いままでと同じやり方では難しい。トヨタはこれまでと違う切り口で、クルマに興味のない方、未来を一緒につくっていきたいという方にアトラクトするブースをつくりました」
とは、11月2日にトヨタブースで行われたイベントでの章男さんのコメントです。

※トヨタブース

もちろん、賛否両論があります。それはそうでしょう。旧来のモーターショーが好きだった自動車ファンには、物足りなかったでしょうからね。新技術の発信が弱い、トヨタ色が強すぎる、会場が分かれていて不便、自動車と関係ない、何のショーかわかりにくいなど、批判的な声は耳にしましたし、それは当然の反応です。そして、どの批判もある面、正しいと思います。

ただ、これまで通りのモーターショーをやっていたのでは、尻すぼみが目に見えているなか、とにかく変えてみた。そして変えた結果、何はともあれ、来場者数の増加につながったことは間違いありません。

「CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)」に代表される新技術の台頭によって、自動車業界は「100年に一度の大変革」といわれます。そのなかで、モーターショーが変化しないわけにはいかない。

東京モーターショーは、一皮むけた。世界中のモーターショー主催者が、これに注目したことでしょう。CESが「家電見本市」から、「CASE」や「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」、スタートアップ企業の見本市へと変化しつつあるように、モーターショーも、脱モーターショーを図るタイミングなのは確かです。

私は、東京モーターショーを見て、“山は動いた”と感じました。自動車産業に関わる人たちが、意識や考え方を変え、内向きを脱して外へ開いたことによって、モーターショーが変わった。いわば、自動車産業が変わろうとしたことで、社会にインパクトを与えたわけです。

この価値観の変化は、従来通りのクルマづくり、自動車ビジネスから脱却できない人たちには、なかなか理解されないことかもしれません。

今後は、今回の130万人という来場者数を、いかに自動車産業の勢いにつなげていくかが問われます。

さらにいえば、今回の東京モーターショーの盛り上がりは、来年の東京五輪・パラリンピック成功へのヒントでもあるでしょう。五輪会場で未来のモビリティがお披露目されることもありますが、東京や国をあげて、さらなる盛り上がりの波をつくることがで きれば、日本全体が明るく、元気になります。

「来年はオリンピックもあります。トヨタ自動車、そして自動車業界が、日本を元気にするために、モーターショーというものを『未来のお祭り』のようなものにさせる、第一歩を踏ませていただきました」

と、章男さんは語りました。

課題先進国である日本は、少子化、超高齢化、人手不足、環境問題、災害の大規模化など多くの難題を抱えます。これらの課題は、今後、欧米先進国もまた直面する課題です。つまり、日本が頑張れば、その姿は世界に発信すべきモデルになります。

今回のモーターショーの盛り上がりは、世界の自動車関係者を勇気づけた。日本が世界に向けて、「CASE」時代の新しいモビリティの在り方、モーターショーの在り方を提示して見せた。そのことは、評価していいと思います。

 

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