トヨタは6日、2021年3月期の業績予想を大きく上方修正しました。「社長就任以降の11年間の取り組みで、トヨタという企業が少しずつ強くなってきた」と、社長の豊田章男氏は自信をのぞかせました。社長が年度の途中で決算説明会に出るのは、極めて異例です。トヨタはなぜ、コロナ禍でも底力を発揮できるのか。
トヨタが6日に発表した21年3月期第2四半期決算は、売上高が前年同期比25.9%減の11兆3752億円、営業利益が62.8%減の5199億円、純利益が45.3%減の6293億円でした。
同日発表の21年3月期の通期業績見通しは上方修正し、最終的な儲けを示す純利益を1兆4200億円に引き上げました。上方修正の背景には、新型コロナウイルスの影響で減少した世界販売が5月以降、北米や中国を中心に想定を上回るペースで回復したことがあるようですが、それにしても、トヨタの収益力は際立っています。底力といっていいでしょう。
そこには、ズバリ、豊田章男氏が社長就任以来、11年間にわたって積み上げてきた企業体質強化の取り組みがあります。
では、豊田章男氏はなぜ、11年間にわたって体質強化の取り組みを続けてこられたのか。
その原動力は、長年、心の奥底にためてきた〝くやしさ〟と〝無念〟です。
2008年、豊田章男氏が想定外の大赤字を背負って社長に就任したとき、周囲は〝お手並み拝見〟と冷ややかに眺めていました。〝三代目〟〝おぼっちゃん育ち〟といって色眼鏡で見ていました。彼は、さんざん〝くやしさ〟を味わったんですね。
「あなたにはできない、苦労を知らない、現場を知らないといわれ続けてきました。それでもやってこられたのは、危機に直面していたからです」と、豊田章男氏はオンライン会見の席上、当時の気持ちを吐露しました。
リーマンショック、大規模リコールによる米公聴会への出席、「3・11」大震災など、危機の連続の中で、〝くやしさ〟をバネに挑戦を続けたんですね。
つまり、〝くやしさ〟こそ、豊田章男氏の〝経営の原点〟です。「トヨタらしさを取り戻す」長くて厳しい闘いに挑むにあたっての最強のエネルギーであり、マネジメントの核心を形成してきたといっていいでしょう。
もう一つの原動力は、喜一郎の〝無念〟をはらしたいという豊田章男氏の強い思いです。
トヨタの創業者の喜一郎は、戦後の赤字経営、労使紛争の責任をとって辞任し、完成車の誕生を見ずに亡くなりました。豊田章男氏は、継承者の一人として、報われなかった喜一郎に何とか報いたい、彼の〝無念〟を晴らしたいという気持ちを原動力にして未来のトヨタをつくってほしいと、折に触れて社員に語ってきました。
「本日発表した数字は、決して成り行きのものではない」と、豊田章男氏は記者会見で力説しましたが、11年間の取り組みの積み重ね、そして、こうした豊田章男氏の情熱なくして、この数字は出せませんよね。少しずつ、積み上げてきた取り組みの成果が、この数字を導き出したといえます。
トヨタの回復ペースについて、〝ひとり勝ち〟という声があるのは確かですが、それに対して、豊田章男氏は「ひとりも勝たなかったら、この国はいったいどうなるのでしょうか。ひとりでも勝たないと、この産業は支えられないし、この国も支えられない」と述べています。
コロナ禍という先の見えないときだからこそ、トヨタの業績予想の上方修正は、自動車産業を元気にし、日本を勇気づけることは間違いないでしょう。