商品の競争力は、今日、「テクノロジー」より「デザイン」です。
では、なぜ、いま、デザインなのか。
家電業界では、アナログからデジタルへの変化と同時に、
商品のコモディティ化が進みました。
新興国メーカーでも、部品を買って組み立てるだけで、
高い性能をもつテレビをつくることができるようになった結果、
消費者の目は、解像度などの「テクノロジー」から、
色味や質感、使いやすさなどの「デザイン」へと移っていきました。
優れたデザインをもつ商品が、強い競争力をもつようになったんですね。
典型的な例が、サムスンが06年に発売した
液晶テレビ「ボルドーシリーズ」です。
黒を基調にしたシャープなデザインで、この時期、サムスンは、
液晶テレビのシェアで一気に世界トップに立ちました。
同じことが、自動車にもいえます。
自動車は、安全性能、環境性能などの技術は日進月歩で、
家電ほどコモディティ化は進んでいません。
しかし、車のユーザーは、いまや、
「テクノロジー」より「デザイン」に価値を見出す人が少なくありません。
実際、「トルクが」「コーナリングが」云々といった技術の話よりは、
カラー、使い勝手、快適性などの「デザイン」の要素が、
購買の大きなポイントになっています。
今後、自動車業界においても、
デザインの重要性がどんどん高まることは間違いありません。
では、日本車のデザインは、どうか。
残念ながら、アウディやBMWといった欧州車には、
まだまだ劣る印象ですわね。
日本車のデザインは、近年、改善傾向にあるとは思いますが、
総じて、無難で、とんがっていなくて、目立たないデザインが多い。
まとまってはいるんですが、どこかチマチマしていませんか。
欧州車のマネをしろなどという気は毛頭ありませんが、
日本ならではの、美しいデザインはできないものでしょうかね。
私が、日本車でいちばん遅れているというか、
不満に思っているのは、まさにデザインです。
幸いというか、おくればせながら、デザイン革新の動きが出てきています。
例えば、スズキは、看板車種の軽「アルト」の次期モデルのデザインを、
社外デザイナーに任せます。
独アウディのデザインを担当したことがある、
和田智氏を起用し、イメージを刷新するというんですね。
軽自動車に、外部デザイナーを起用するのは、きわめて珍しい。
日産CEOのカルロス・ゴーン氏は、いすゞ自動車から、
中村史郎氏(現・専務執行役員、CCO【チーフ・クリエイティブ・オフィサー】)を招き、
同社のデザインを任せました。
また、韓国現代自動車の躍進の背景には、デザイン戦略があります。
米デザインセンターの責任者にBMWのデザイナー、
クリストファー・チャップマン氏を引き抜きました。
傘下の起亜自動車にも、フォルクスワーゲンやアウディのデザイナー、
ペーター・シュライヤー氏を起用したりと、デザインを強化しています。
結果、北米で「ソナタ」が大ヒットしたのは、記憶に新しいところです。
外国人デザイナーを招くのも一つの手だとは思いますが、
私は、あえて、たわごとといわれるのを承知のうえで、
仏像をはじめとする仏教美術に学ぶべきだと思います。
日本の家電や自動車のデザインをよくしようとするならば、
興福寺の阿修羅像や、円空仏を観察し、
あの美しい線、静謐さ、優しさに学ぶべきではないか。
さすれば、日本人にしかできない、
美しいデザインが生まれると思うのですが、いかがでしょうかね。