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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日産、“e-Bio Fuel Cell”でトヨタに宣戦布告?

日産は、昨日、「バイオエタノール燃料電池電気自動車“e-Bio Fuel Cell”」を開発したと発表しました。まず、「バイオエタノール燃料電池電気自動車」とは、いったい、何でしょうかね。

これは、トヨタやホンダがもつ燃料電池車(FCV)でも、日産リーフのような電気自動車(EV)でもありません。いや、どちらでもある。いずれにせよ、世界初のシステムなのは間違いない。

燃料は、FCVの水素、EVの電気に対して、バイオエタノールです。
バイオエタノールから、改質器を通して水素をつくる。水素と空気中の酸素をまぜて燃料電池で発電。その電気をいったんバッテリーに貯め、モーターを回して走ります。
会見の席上、日産副社長の坂本秀行さんは、「われわれの中心はEVです。そこは変わりません。これもじつはEVです」と話しました。「内燃機関をEVに置き換えてゼロエミッションを達成するというのがわれわれの使命と考えているので、そのためには非常に有効な技術です」というんですね。モーターで走るという点からいえば、EVです。ただ、燃料電池も搭載している。

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※日産副社長の坂本秀行さん

ちなみに、水素をつくる際にCO2が発生しますが、バイオエタノールの原料となるサトウキビなどが生育過程で吸収する分と相殺され、実質CO2フリーです。

なぜ、日産は、EVやFCVではなく、新しく“e-Bio Fuel Cell”を開発したのか。
大きな背景としては、ご存知のように、走行中に排出ガスを一切出さないゼロエミッションビークル(ZEV)規制があります。米カリフォルニア州を出発点として、ZEV規制が広がりつつあります。“e-Bio Fuel Cell”が該当するかは別として、現状、完全なZEVは、EVとFCVだけです。

EVは航続距離が短い、充電に時間がかかるという問題があります。FCVはその点は問題ありませんが、車両価格が高い。さらに、EV、FCVともに、インフラすなわち充填設備の未整備という大きな課題があります。

これらの問題をクリアする解として、日産が提示したのが、今回の“e-Bio Fuel Cell”なんですね。

航続距離はガソリン車なみの800km。充電時間もガソリン車並みの速さ。希少金属など高価な材料を使わないため、車両価格はEV並みに抑えられる。バイオエタノールのインフラは、ブラジルなど普及地域ではすでに整備されています。新しく整備するにしても、水素ほどコストはかからない。
長年、次世代環境車の本命はFCVといわれてきました。
第二次安倍政権以降、日本は国をあげて水素社会の実現を目ざし、FCVの普及を後押ししてきました。

一方で、これが世界基準になるという保証はどこにもない。むしろ、欧米ではFCVよりEVのほうが広がりつつあり、FCVが日本の独自規格化すなわち“ガラパゴス化”するリスクは、かねてから指摘されていました。

日産は、2017年にも製品化としていたFCVの開発は凍結するとしています。これは、世界一の座にあってFCV路線をいくトヨタに対する“宣戦布告”ということでしょうか。
まあ、次世代環境対応車の本命は、依然として不明で、自動車メーカーの“技術開発戦争”は今後もますます激しくなるばかりですね。

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