「変革をやり切った。収益重視がグループ全体に浸透した」
ソニーの平井一夫社長は17日、都内で開かれた定時株主総会でそのように明言し、ソニーの復活に自信を示しました。
15年度の売上高は8兆1057億円、営業利益は前年度の4倍強の2942億円、純損益は1478億円で、3年ぶりに最終黒字を確保しました。
牽引役は、5年ぶりに黒字化したエレクトロニクス分野です。なかでも、テレビ事業は、4Kテレビを含め高価格帯にしぼったことと、コスト削減の実行によって、収益構造を改善しました。
ソニーはこれまで、“普通の会社”として、10年以上にわたって構造改革を続け、その間、創業以来のDNAである“夢”は封印されたままでした。その封印をようやく解くことができそうなんですね。
問題は、封印を解いたソニーが、再び、自由闊達さを取り戻して、新しい商品に取り組めるかどうかです。構造改革はせいぜい3年といわれるなか、10年の構造改革を続けてきたソニーに、自由闊達な風土は残されているのかどうか。
実際、ソニーは99年にエレクトロニクス事業を中心に1万7000人の人員削減を発表して以来、ほぼ3年ごとに1万人から2万人の人員削減を繰り返してきました。その過程で優秀な技術者はソニーを去ったといわれます。
成長を担う商品に投資できるだけの財務体質は戻っても、肝心のソニー社員が疲弊したままでは、“夢”のある商品はつくれません。また、リストラ体質に染まったソニーが、成長投資をしていくのは簡単なことではないでしょう。
期待したいのは、ソニー子会社のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の存在です。
88年に設立されたソニーCSLには、世界中から約30人の精鋭たちが集まり、人工知能、生物、環境、エネルギーなどをテーマに自由に研究活動をしているんですね。
コンテンツをラジオのように再生する「オトラテ」、笑うと開く冷蔵庫など、ユニークで斬新なアイデアのいくつかは、ソニー商品に採用されています。
最大の特徴は、個人に対して研究資金を出していることです。研究員とは1年ごとの契約で、研究成果はすべて個人の名前で発表されます。
日本の大手企業の研究所のいくつかは、2000年以降、コスト削減の一環として縮小、閉鎖されましたが、ソニーは業績が悪化しても、ソニーCSLを手放さなかった。研究費は、本社のリストラの際も維持されてきた。
ソニーの完全復活に向けて、ソニーCSLの役割は小さくなさそうです。
例えば、次世代スマートフォンです。スマホが「もしもし」「はいはい」だった電話の定義を大きく塗りかえたように、次世代スマホもこれまでにないものとして生まれ、定着していくに違いありません。
ソニーCSLの研究成果が、次世代スマホに採用されることは十分に考えられるでしょうね。