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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

トヨタのFCV特許公開の読み方

新年早々、驚きのニュースが飛び込んできましたな。
トヨタが一発かましましたよね。

トヨタは5日、米国ラスベガスで開催される世界最大の家電見本市
「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」のプレスカンファレンスにおいて、
燃料電池車(FCV)の関連特許約5680件の実施権を
すべて無償で提供すると発表しました。

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今回公開するのは、トヨタが単体で保有するFCVの特許です。
発表によると、水素と酸素を反応させて発電する中核部品
「燃料電池スタック」に関する特許約1900件、
燃料電池システム制御の特許約3350件、
高圧水素タンクに関する特許約290件については、
市場導入の初期段階にあたる2020年まで無償で提供。
水素ステーション関連の特許約70件については、
早期普及に貢献するために、期間を限定することなく無償で提供するとしています。

トヨタがFCVの開発をスタートさせたのは、
1990年代初頭です。25年近くにわたって、
相当のおカネをかけて研究開発してきた最先端技術をタダで公開するというのです。
正月気分を一気に吹き飛ばすほどの衝撃的なニュースです。

この決断のウラには、2つの背景があると思います。

一つは、“ハイブリッド車(HV)の教訓”です。
トヨタは1997年に世界初の「プリウス」を発売して以来、
HVに関する技術を特許によって囲い込んできました。
特許の使用を有償で認めたのは、
マツダや富士重工業、米フォードなど、一部の提携先企業のみ。

HVの中枢であるハイブリッドユニットは、
いまだに国内でのみ生産しています。
海外では、やっと2015年に中国での現地生産に向け、
江蘇省・常熟の研究開発センター(TMEC)で準備が進められている段階です。

トヨタが“虎の子”のHV技術を囲い込み続けている間に、
世界の自動車業界では何が起こったか。

日本では、2014年上半期、軽自動車を除く新車販売台数のうち、
36%をHVが占めるなど絶好調ですが、海外ではなかなか普及しない。
そうこうするうちに、日産「リーフ」やBMW「i3」など、
電気自動車(EV)が、次世代自動車の大本命と目されるようになりました。
クルマに対するニーズの違いや、補助金制度の違いなど、
さまざまな事情はあるでしょうが、特許によって囲い込みを行った結果、
HVが“ガラパゴス化”してしまったのは否めないでしょう。

この点、FCV技術をオープン化すれば、参入障壁はぐっと下がります。
FCV市場の拡大を後押しする可能性は小さくないでしょう。

技術流出を懸念する声があるでしょうが、
特許の公開は、外部の技術者や部品メーカーの協力を促します。
オープンイノベーションによって、
さらなる技術革新を図る可能性も高まるはずです。
また、無償公開することによって、
FCVのデファクトスタンダードを狙ったという見方もできます。
今回の決断は、トヨタの技術戦略の一大転換といっていいでしょう。

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もう一つの背景は、水素ステーションのインフラ整備の問題です。
FCV普及のカギを握るのは、水素ステーションです。
2015年内に100箇所の整備を目指す計画もありますが、
水素ステーションの設置費用は1基当たり4億円から5億円。
ガソリンスタンドの設置費用が約1億円程度、
EVの急速充電スタンドの設置費用が500万円であることを考えれば、
水素ステーションのコストがFCV普及のネックになります。

トヨタ一社の努力で、インフラを整備することなどできません。
現時点で、FCVの量産を表明しているのは、
日米欧、韓国の大手8社に過ぎませんが、
いま、できるだけ仲間を増やして、水素インフラの調達コストを下げなければ、
“究極のエコカー”が宝の持ち腐れになりかねません。
ゼロエミッション社会の実現など夢のまた夢になります。
その意味で、今回の特許公開は、トヨタの危機感の表れといっていいでしょう。

さらにいえば、トヨタの今年度の営業利益が円安の追い風を受けて、
限りなく3兆円に近付くことが見込まれています。
その経営的余裕が、無償公開を後押ししたといえるでしょうね。

もっとも、コンピュータのソフトウェア業界では、
オープンソース化によって、技術革新を加速させる発想は一般的です。
また、自動車業界でも、イーロン・マスク氏率いる米国の電気自動車メーカー、
テスラ・モーターズが14年6月、EV技術の特許を開放しています。

どちらかといえば内向き志向の印象が強いトヨタが、
新たな成長と、水素社会の主導権を握るべく、
ずいぶん思い切った“次なる一手”を打ったといっていいでしょうね。

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