トヨタが、首位陥落です。2014年度のグループ世界新車販売台数で、VW(フォルクスワーゲン)に敗れました。トヨタの約1016万8000台に対し、VWは、約1018万5000台です。その差はわずか2万台弱ですが、「世界1位」と「2位」の差は、とてつもなく大きい。
この結果を、どう見たらいいのでしょうか。
二つの見方があるでしょう。一つは、トヨタの首位陥落を容認する見方です。このブログでも何度も触れてきましたが、トヨタ社長の豊田章男さんは、リーマン・ショック前の急拡大を反省し、昨年度を「意志ある踊り場」と表現しました。拡大路線から一線を画し、足場固めを最優先するという意味です。3年間の新工場建設凍結にも踏み切りました。あえて立ち止まったのだから、VWに抜かれてもやむを得ない、という見方です。
もう一つは、厳しい見方です。そうはいっても、ビジネスは競争の世界です。当然、「一位」でなければ、意味がないという見方もあります。
トヨタは、VWを抜き返すことができるのでしょうか。
今後の展開を予想するにあたり、VWは、「世界一」の称号を欲するあまり、ちょっとムリをしている感があります。「世界一」を推進してきたのは、監査役会長のフェルディナント・ピエヒ氏です。そのピエヒ氏をめぐって、ここ2週間、お家騒動が発生しました。カリスマ的存在で、VWの一時代を築いたピエヒ氏は、25日に辞任し、一応のカタがつきました。しかし、今回の騒動は、VWの抱えるガバナンスの問題を露呈することになりました。
VWは、利益率では、トヨタに大きく水を空けられています。トヨタの営業利益率が10%なのに対し、VWグループは6%前後です。しかも、収益の約半分は、高級ブランドのアウディとポルシェに頼っている。例えば、アウディやポルシェのブランドに何かあったとき、大きく利益率を落とすリスクがあります。というのは、小型車中心のVW単体ですと、2%ともいわれているのですから。
また、販売地域の偏りもリスクが高い。VWは、1018万台のうち、3分の1以上にあたる367万台を、中国で販売しています。ご存じの通り、中国はカントリーリスクが大きい。中国市場では、いつ何が起きてもおかしくありません。
その点、トヨタは安定しています。
章男さんは、トヨタは「持続的成長」を目ざすとしています。そのための「意志ある踊り場」を経て、収益構造の改善が進みました。15日には、新工場建設の凍結を解消し、中国とメキシコに新工場をつくると発表しました。時間をかけて取り組んできたクルマづくりの大改革、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)の成果の刈り取りも、これから始まります。
世界でもっとも厳しい競争を繰り広げている自動車業界において、「世界一」には重みがあります。トヨタに、拡大路線に戻れというわけではありません。
しかし、トヨタは、敗北をしっかり受け止め、「なにくそ」と抜き返す気概をもつべきでしょう。そして、昨今のトヨタを見る限り、再び首位に立つ力を備えつつあると思います。