今年、ビジネス界でもっとも注目を集めた人事の一つが、パナソニック代表取締役専務執行役員に就任した、樋口泰行さんの“出戻り人事”ではないでしょうか。
樋口さんは、1980年に大阪大学卒業後にパナソニック(当時の松下電器産業)に入社。しかし、米ハーバード大学経営大学院(MBA)修了後、退社して、ボストンコンサルティングへ。さらに、アップルやヒューレットパッカード日本法人社長などを経て、ダイエー社長として再建を手掛けます。その後、約10年間にわたる日本マイクロソフトの社長、会長を経て、今年4月、パナソニックに帰ってきたんですよね。
※樋口泰行さん(今月)
樋口さんは、パナ社長の津賀一宏さんに口説かれて、先述のように、代表取締役、専務執行役員、さらに社内カンパニーであるCNS(コネクティッドソリューションズ)社の社長として迎え入れられました。かつてのパナソニックの企業文化ではあり得なかった“出戻り人事”であり、パナソニックの変化、そして覚悟を象徴する人事だったと思います。
先だってインタビューした際、樋口さんは、「日本企業は、昔なら、『裏切り者には二度と敷居を跨がせない』みたいなところがありましたが、パナソニックから声をかけてもらったというのは、とくに津賀さんになってから、雰囲気が非常にオープンに、フェアになっているんだと思います。役員同士でもオープンに意見を戦わせて、健全な意思決定ができるベースのカルチャーになっていると思います」と話していました。
さて、樋口さん率いるCNS社は、いったい何の会社なのか。今年4月、従来のAVCソリューションズを母体として組織再編され、結成されました。モバイルソリューションズやアビオニクス、プロセスオートメーションなどB2Bビジネスの集まりです。
今月15日、CNS社の「顔認証ゲート」の技術セミナーがありましたので、少し紹介してみたいと思います。
年末年始に海外旅行を計画されている方も多いでしょう。羽田空港の帰国審査で、パナソニック製の「顔認証ゲート」を体験することになるかもしれません。いやいや、すでに体験済みの方もいるでしょう。法務省は、10月18日から、日本人の帰国審査について、パナソニック製の顔認証ゲートを3台、羽田の国際線ターミナルに導入しているんですね。
※顔認証ゲート
パスポートリーダーにパスポートをかざすと、パスポート内のICに保存されている顔の画像と、前面のカメラ内臓ハーフミラーで撮影した画像を照合し、本人確認をする。認証されるとゲートが開く。非常に簡単です。デモンストレーションでは、問題がなければ、5~6秒であっという間に認証されていました。
「当然、現場では10年前のパスポートをもっている方など、とくに若い方だとだいぶ顔が変わっているケースもあるんですが、問題なく通過できています」
とは、CNS社イノベーションセンターシステム部システム2課課長の窪田賢雄さんのコメントです。
※説明するCNS社の窪田賢雄さん
経年変化に加え、化粧、太った場合、やせた場合などにも変化しにくい顔の部位を選んで照合するなど、速く正確な本人照合の技術は、パナソニックの長年にわたる画像認識技術の蓄積の賜物です。
そして、重要なのは、お年寄りでも使いやすいデザインでしょうね。間違えてパスポートを反対向きに置いてしまっても読み取れるほか、縦に置いてしまった場合などは自動検出して「置き方を確認してください」とガイドが表示されるなど、細かい気づかいが行き届いています。外観も威圧感がないよう、白くて丸っこい、家電のようなデザインです。
空港の入国、帰国審査の際の長蛇の列に、辟易とした経験のある方も多いでしょう。長蛇の列の一因は、入国審査官の不足、すなわち人手不足です。「顔認証ゲート」は、人手不足を技術で解決し、現場の負担を軽くした好例です。いま、物流や流通など、さまざまな分野で、日本は圧倒的に人手が足りず、現場の負担が課題になっていますよね。
これは、逆にいえば、CNS社のような企業にとって、大きなビジネスチャンスです。樋口さんに期待されているところは、ますます大きいというわけですよね。