世界経済はいま、グローバル化、IT化、ネットワーク化などの激しい変化のなかにあります。IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)など先進技術は、いまや、農業、製造業、流通業などあらゆる産業に利用されています。
この変革期において、企業は旧来のビジネスモデルを維持していては、生き残っていけません。既存の価値観や枠組みにとらわれない、ダイナミックな事業戦略の転換が求められているんですね。
1990年代、米IBMはコンピュータのパーソナル化という時代の変化についていけず、深刻な経営難に陥りました。しかし、ルイス・ガースナーCEOのもと、メーカービジネスからソリューションビジネスへと事業戦略を大きく転換して生き残りました。日本企業は、積み上げ型の事業の改善は得意な反面、ダイナミックな事業や戦略の転換は苦手とされます。しかし、いまや、変わらなければ生き残れない時代を迎えています。
事業戦略の転換によって、新たな市場に成長の柱を築いた企業があります。今年、創業100年を迎えたパナソニックです。
※パナソニックの提案する次世代カーコックピットの一つ
パナソニックは創業以来、B2C事業である家電を事業の中心に据え、「家電王国」を築き上げてきました。それを、2012年以降、B2B事業の車載へと、事業の中心を移したのです。背景の一つには、自動車産業の変化がありました。
昨今、自動車産業では、電動化、自動運転、コネクティッド化、シェア化が大きな潮流となっています。そのなかで、パナソニックなど家電メーカーにとっては、電動化用バッテリーシステム、自動運転車用コックピットシステム、センサー類、カメラなど、自動車メーカーに提案できる部品やシステムが大きく広がりました。そのポテンシャルに着目したのです。
加えて家電産業は、パナの看板商品だったプラズマテレビなどのAV機器において、新興国メーカーの台頭によって大量生産販売型のビジネスが行き詰まり、収益低下が深刻でした。その意味でも、車載事業をはじめ、利益率の高いB2B事業は、パナの生き残りのカギだったんですね。
「出口を変えろ」
そのように社内に呼び掛けたのは、パナソニック社長の津賀一宏氏です。
同じ製品や技術でも、“出口”すなわち顧客を変えることで、強みを生かせる事業へリソースをシフトしようという意味です。
当時、赤字を出していたデジタルテレビや携帯電話事業は、一流の技術を保有しながら、収益を上げられず、赤字を垂れ流していました。「家電」から「車載」へ、戦いの土俵を変えようと考えたんですね。
パナソニックは、車載事業に注力することを決めるや、テレビや携帯電話の技術や人的リソースを、車載事業に結集させました。結果として、民生用で鍛えられたデジタルや通信の技術は、車載機器を一気に強化することにつながりました。
さらに、収益の悪化していたセンサー類などのデバイスや、二次電池も「家電」から「車載」へと“出口”を変える戦略をとったんですね。
パナソニックの車載事業は、2018年度には、当初の目標通り売上高2兆円を達成見込みです。さらに、21年度には同2.5兆円の達成を掲げ、自動車部品メーカーのトップ10入りを目指しています。
昨年12月には、トヨタ自動車とEV向け電池開発の協業に向けた検討を始めることで合意しました。いまや、パナソニックは、自動車部品メーカーとしての地位を、確実に築きつつあります。
現在、パナソニックの掲げる高成長事業には、車載二次電池、次世代コックピット、ADAS(先進運転支援システム)などの車載関連事業が並びます。これらの高成長事業は、従来からのパナソニックの強みであるB2C事業の家電に加え、B2Bソリューションや住宅関連など、パナソニックの将来を担う事業を支えます。大胆な事業戦略の転換が、功を奏した形です。
今日、世界のビジネス環境は、日に日に変化のスピードを増しています。この時代を生き抜くために、企業は、グローバル化や技術進化など、あらゆる変化に柔軟に対応する力が求められているのです。