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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日産株総で見えたゴーン会長の「情と理」

6月26日、日産は横浜で定時株主総会を開催しました。

社長兼CEO(最高経営責任者)の西川廣人さんほか役員、そしてルノー・日産・三菱各社の会長を務めるカルロス・ゴーンさんが議長として登壇しました。

※カルロス・ゴーン会長(2016年10月撮影)

出席株主は過去最高で、前年の2倍近い4188人。ルノーとの経営統合が取り沙汰されるなか、関心が高いんですね。

ただ、ルノー・日産・三菱自動車の経営統合を含めた関係見直しについては、ゴーンさんが「手段は複数考えられる」といった通り、正直、どうなるかまだわかりません。さまざまな可能性があるのは事実でしょう。

現状では、3社は、17年に7260億円以上のシナジーを生みだし、このうち日産が享受したシナジーは、半分以上の4040億円にのぼるといいます。今後、どうなるにしろ、アライアンスをここまで進化させたのはゴーンさんの功績であり、彼なしに現在の日産はありえないのは確かです。

さて、質疑応答では、東日本大震災の際のいわき工場の話が出ました。これについては、私もビジネスジャーナルで記事にしたことがありますが、震災直後の3月28日、ゴーンさんはいわき工場を訪問し、「必ず工場を早期再開する」と宣言し、実際に1カ月強で一部生産再開にこぎつけました。ゴーンさんの訪問とその言葉に、震災と原発事故のダブルパンチを食らった従業員やいわき市民は、強く勇気づけられました。

いわき工場の話を出した株主は、ゴーンさんに「会社は、社会に対してどう貢献していけばいいと考えるか」という質問をしたんですね。

ゴーンさんは、「いわき工場は、日産が震災から復活したというシンボルです」としたうえで、「会社の社会における役割は、まず利潤を上げること」と答えました。そうしなければ、社会への貢献などできませんからね。そのうえで、「企業の成長が社会を支える」「ゼロエミッションカーで環境課題に対応する」ことをあげました。

いわき工場の件や、「利潤を上げること」という回答からも感じることですが、私は、ゴーンさんの経営は「情と理」の経営だと思います。そして、彼のマネジメント能力、人心掌握力には、彼の出自が大きく影響していると想像します。

よく知られる通り、ゴーンさんはレバノンで生まれ、ブラジルで育ち、フランスの大学に進学して仏企業に就職し、日本にやってきました。ダイバーシティを具現化したような人物です。それゆえでしょう、彼は、それぞれの国や地域の文化を非常に尊重するんです。

たとえば株総でも、ゴーンさんは壇上に上がるときに一礼し、席に着くときにも、律儀にまた一礼する。日本の「礼」の文化を尊重するからです。また、工場で新型車のラインオフ式などが行われれば、作業員と同じナッパ服を来て、「エイ、エイ、オー」と掛け声をかける。そこに、サッカーW杯直前に日本代表監督を解任されたハリルホジッチさんのような「上から目線」は感じられません。

震災当日、パリにいたゴーンさんは、連絡を受けるや「横浜に帰る」といって、関係者を驚かせました。いわき工場に足を運び、従業員を励まし、再建をコミットメントして実現する。彼の行動のベースにあるのは、いわき市民や従業員に対するリスペクトでしょう。

「情」だけでも「理」だけでもない。だからこそ、日産社員はゴーンさんに従って再建を果たしました。いまや複雑なアライアンスを率いることができるのも、「情と理」ゆえだと思います。

その意味で、アライアンストップは、余人をもって代えがたし。とはいえ、経営には後継者が必要です。経営統合、さらに後継者問題に、いかに片を付けるのか。解決策はまだ見えませんね。

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