企業にとって大切なのは、社長の〝顔〟が見えることではないでしょうか。社長の〝顔〟が見えてこそ、社会の共感を得ることができ、困難を乗り切れるからです。「性格的には飽きっぽい。短気。すぐに答えが出ないとイライラする」と自らを評する丸本氏ですが、社長になると、そうはいかない。「だから、最近はすごく我慢していますよ」。
※マツダの丸本明社長
社長の丸本明氏は6日、報道関係者との意見交換会において、「最初に社長としての洗礼を受けたのは、7月に起きた豪雨災害でした」として、次のように述べました。
「災害時の判断は、誰に相談するものでもない。自分でこうしようといわなければいけない。これは、副社長時代とはまったく違うことでした」
ご存じのように、マツダは豪雨の影響を受けて7日から操業休止にしていた広島市の本社工場と山口県の防府工場を12日から稼働させました。ところが、防府工場は通常の〝二直〟で生産を再開したのですが、本社工場は昼勤だけの〝一直〟操業だったんですね。
なぜ、工場が直接被害を受けていないのに、本社工場は通常操業ができなかったのか。
その理由は、工場の都合だけを優先できないことでした。かりにもマツダの工場に向かうトラックで道路が渋滞すれば、被災地復旧に支障が出かねない。丸本氏は苦渋の選択を迫られたんですね。
「悩みましたね。ティア3やティア4のサプライヤーのことを考えると、長く止めるわけにはいかない。そのへんをどうバランスをもって考えるかが、最初の洗礼でした」
その後も、「不適切検査問題」、NAFTAの試練など、経営トップの判断が問われる事象が続きました。
また、豪雨の影響などを受けて、18年4~9月期は減益、今期の業績見通しも下方修正されました。
社長就任後3か月、丸本氏は多くの課題に直面してきたといえます。
「収益力の低下で一番くやしい思いをしているのは私なんで、まずはこれを立て直したい」と、丸本氏は意見交換会において述べました。
いよいよ、これからが社長としての手腕が発揮される本番ですが、丸本氏の社長としての原点はどこにあるのか。
「私はずっとエンジニアでしたから、ビジネスのことなどそっちのけで、エンジニアリングばかりやっていました。原点といえるのは、経営企画を見ることになった2008年です。リーマンショックに見舞われるなか、毎月毎月、これだけのおカネが出ていくのだという状況を見ながら、眠れない夜を過ごしました」
目指すべき社長像についても聞いてみました。
「一人の人間を目標とするより、この人のここに追いつきたい、あの人のここに追いつきたいというように、いいとこ取りをしながら社会人生活を積み重ねてきました。自動車業界でいえば、スズキの鈴木修さんは非常に学ぶことが多い方ですし、豊田章男社長もそうですね。パナソニックの津賀一宏社長も面白い方だと思っています」
「おそらく、社長というのは、自分の人間性を出すというよりも、演じなければいけないのだと思います」
つまり、社長という職をきっちり演じていきたいということですよね。社長としての覚悟です。
丸本氏は今後、社長としてどのようなリーダーシップを発揮するのか。マツダの〝顔〟として、どんなメッセージを発信するか。
世界市場でのシェアが2%のマツダは、独自性や強みを持たなければ存在感を発揮できません。丸本氏が〝顔〟の見える社長となり、マツダを引っ張っていくことは極めて重要ですね。