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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

コロナ後の観光業の再生、〝分散〟と〝質〟がポイント

京都、箱根、鎌倉、浅草…。有名観光地の姿は、ここ数か月で一変しました。新型コロナウイルスの感染防止のための入国制限で、訪日客が激減したからです。訪日客頼みの観光政策は、見直しを迫られているといえますね。

観光庁は15日、3月の訪日客数が前年同月比93%減の19万3700人だったと発表しました。統計開始以来、最大の落ち込みです。

それにともなって、訪日消費も急減しています。1~3月期の消費額は、前年同期比41.6%減の6727億円となりました。

訪日客頼みの観光地や旅館、店舗はいま、かつてない苦境に追い込まれていますね。

政府が観光立国宣言をしたのは2003年。以後、国を上げて観光立国に向けた取り組みが繰り広げられてきたわけですが、ここへきて、その勢いはくじかれたといっていいでしょうね。いや、コロナでくじかれたというより、もともと観光政策には問題があり、それがコロナで明らかになっただけといういい方もできます。

例えば、オーバーツーリズムの弊害です。有名観光地での急激な観光客の増加が、地元住民の暮らしや自然環境を脅かしているのではないかという問題ですね。

百貨店も同様の問題を抱えています。訪日客向けの接客に重きを置いた百貨店からは、既存客が離れていきました。

過度の訪日客依存はもちろん、中国人観光客による爆買いなど、一つの国に頼った施策は大きなリスクがあるということが露呈されました。

しかし、観光立国に向けた勢いを前に、それらの点は、課題としてあげられながら、放置されてきました。なぜ、こんなことになったのか。

観光立国宣言以降、あまりにも訪日客数の増加を急ぎ過ぎたということがあるでしょう。

例えば、2015年7月、鳥取県の境港に4500人もの中国人観光客を乗せた豪華客船が到着し、停泊中に大型商業施設への買い物ツアーが行われました。なにしろ、人口34000人の境港市に4500人もの観光客が大挙して押し寄せたわけです。地元が大混乱に陥るのは当然ですね。商業施設までの観光バスが地元だけでは揃わず、中国地方中の観光バスを境港に集めたそうです。

そんな具合で、短期的に訪日客数を増やそうとする試みが、日本のあちらこちらで見られました。勢い、ツアーバスに乗せられて、お決まりの観光地を分刻みで見てまわるような、ステレオタイプの観光ばかりが目につくようになり、遅かれ早かれ、観光業の衰退を招くことは明らかでした。

コロナで打撃を受けた観光業の中には、資金繰りに追われているところも少なくありません。いまは目先のことに手一杯でそれどころではないかもしれませんが、いずれコロナが収束し、観光地に客足が戻ってきたとき、もとの姿に戻ったのでは観光業の未来はないでしょう。その意味で、いまこそ、日本の観光戦略を見つめなおす絶好の機会ともいえます。

政府は、1.3兆円の観光振興策「Go Toトラベルキャンペーン」を実施し、観光業を支援する計画です。

コロナ後の観光業はどうあるべきか。求められることは2つ。日本も含めて、さまざまな国から分散して観光客を呼び込むこと、観光地を分散していくこと。キーワードは、〝分散〟ではないでしょうか。

それと同時に、求められるのは、〝量〟から〝質〟への転換です。大勢の人を対象にした一回限りの周遊型観光ではなく、長期滞在客やリピーターを呼び込む取り組みが重要になってくるでしょう。

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