新型コロナの感染拡大の終息メドが立たないことから、上場企業の多くが業績見通しを未定とするなかで、トヨタはあえて、21年3月期の業績見通しを公表しました。そこには、日本の自動車産業を背負って立つ、社長の豊田章男氏の覚悟と強い意思が見てとれます。
トヨタは新型コロナの影響により、来年3月期の連結決算で営業利益が前期比79・5%減の5000億円にとどまるとの見通しを公表しました。また、連結販売台数計画は、15%減の890万台の見通しであることを発表しました。
「今回のコロナは、リーマン・ショックよりもインパクトが大きい」と、豊田章男氏は会見で厳しい認識を述べましたが、それでも、トヨタがあえて業績予想を開示したのは、なぜなのか。
基準が示されなければ、サプライヤーは事業計画を立てられない。トヨタが業績予想を開示することで、裾野の広い自動車産業がこの困難を乗り越えられると考えたからなんですね。
コロナ終息後、自動車産業が日本経済復興の牽引役を果たすには、サプライチェーンを維持する必要があります。豊田章男氏には、トヨタ一社では復興の牽引役にはなれないという思いがある。かりにも、サプライチェーンの一社でも欠ければ、自動車産業が日本経済の崩壊の歯止め役として役に立つことはできないと考えているんですね。
そのうえで、豊田氏はこうも語りました。「来期の黒字は確保できる見通しであり、終息時の復興の牽引役を担う準備は整ったと思っている」。その発言は、豊田氏がこれまで行ってきた企業体質の改善が進んでいることへの自信のあらわれにほかならないといえるでしょう。
また、豊田章男氏は常々、国内生産台数300万台の維持を公言してきましたが、それについても死守することを断言しました。
もっとも、国内生産台数300万台の維持は簡単なことではありません。豊田章男氏は、「理解してほしいことがある」として、つぎのように述べています。
「いまの世の中、V字回復がもてはやされます。雇用を犠牲にして、国内のモノづくりを犠牲にして、業績を回復させる。それが評価されるが、違うと思うこともある。苦しいときこそ、歯を食いしばる。それを応援できる社会であることが求められると思います」
コロナ禍を乗りこえるため、リーダーには強いメッセージ力が求められますが、豊田氏の言葉には、日本のモノづくりを一身に背負う強い思い、そして、経営者として日本を背負う覚悟があらわれているといえます。