「脱エンジン」宣言から約1年。2030年までにグローバルで30機種のEVを展開し、年産200万台超を計画すると、ホンダ社長の三部敏宏さんは発表しました。世界で想定以上のスピードでEVシフトが進んでいることを思えば、ホンダの発表にはサプライズがあるとはいえません。ホンダはEV戦略で巻き返しを図れるのか。EVを軸にした四輪事業の立て直しは可能なのでしょうか。
30年までにEVの年間生産台数を200万台に引き上げるということは、四輪の4割をEVにするということです。相当、高い目標といわざるを得ないといっていいでしょう。
というのは、ホンダは20年、小型EV「ホンダe」を発売しましたが、21年の生産台数は約1万4000台で、売れているとはいえませんね。
「まずは、軽商用車向けからスタートし、軽自動車を含む小型のプラットフォームを展開していくことでアジア地区でも広げていきたい」と、執行役専務の青山真二さんは記者会見の席上、述べました。
ホンダは、100万円台の軽タイプのEVを24年前半に大手物流事業者などに限定して販売する計画です。
三部さんは、「軽商用のEVは、すでに量産されている『N』シリーズをベースにコストを下げたい」と語りましたが、そもそも利益率が低い軽商用のEVで収益をあげられるかどうかはむずかしいところです。加えて、EVの車両コストの3、4割を占めるとされる車載電池。世界の自動車メーカーがあの手この手で電池価格の低減に取り組んでいますが、電池素材の価格も上昇しており、簡単ではありません。
24年には、GMと共同開発中の中大型クラスのEV2車種を北米に投入する計画を発表しました。26年には、ホンダのEV向けプラットフォーム「Honda e:アーキテクチャー」を採用した上級モデルを投入、27年以降、GMの電池「アルティウム」を使って共同開発する300万円台のEVを北米から投入する計画です。
ただ、EVシフトの一方で、じつはホンダはHVという〝現実路線〟を捨てたわけではありません。
「HVは30年でも強みとなります。HVとEVで闘っていきます」と、三部さんは会見で述べました。
EVシフトを進めながらも、ホンダが当面、HV頼みを捨てきれないのは、いかにEVシフトがむずかしいかの証拠といえるでしょう。
実際、充電インフラの整備、高額な車両、車載用電池の確保など、EVにはまだまだ乗り越えなければいけない壁がたくさんあります。
「非常に高い目標ではありますが、両社のアライアンスによって達成可能であると考えています」と、三部さんはGMとの協業に期待を寄せましたが、計画通りにいくかどうかはわかりません。GMはホンダにとって、マラソンでいうところの〝ペースメーカー〟に近い存在といったらいいでしょうか。
ホンダのEVシフトは成功するかどうか。IT企業など異業種も参入し、しのぎを削るなか、ホンダがEVで巻き返すのは簡単ではありません。
三部さんはいま、大きな壁にぶつかっています。しかし、いまの時代、次々と襲い掛かる困難、危機への対応は当たり前です。それを乗り越えてこそ、歴史あるホンダの社長といえるでしょう。三部さんの実力が試されます。