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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

市役所はなぜ、百貨店と“奇妙な同居”をしているのか

今日は、地方都市の再生をめぐって、かねてから論じられている
「コンパクトシティ」の可能性について考えてみます。

ちょっと旧聞に属しますが、
11月24日の日経新聞の連載「人口病に克つ」に、
栃木市役所と東武宇都宮百貨店の“奇妙な同居”の話が出ていました。

記事によると、栃木市役所は、
老朽化が進んだことから庁舎の建て替えを検討していたが、
人口が減るなかで新庁舎を建設するのは難しいと判断。
財政負担の軽い既存ビルへの移転を決断し、
14年2月、地元百貨店の撤退跡地に移転したんですね。

さらに、中心市街地の活気を高めるために、
ビルの1階に東武宇都宮百貨店を誘致しました。
その結果、市役所と百貨店の“奇妙な同居”が実現したという次第です。
ちなみに、栃木市は同百貨店から賃貸料を受け取る仕組みで、
百貨店内には、地元特産品の特設コーナーが設置されているそうです。

記事でも指摘されていることすが、
この狙いは、官民がタッグを組み、ウィンウィンの関係を構築することで、
互いの弱みをカバーすることだと考えていいでしょうな。

高度成長期に建てられた役所は、
橋や道路などインフラと同じ問題を抱えているわけですよ。
インフラの建て替えには、莫大なコストがかかりますし、
改修するにしても、メンテナンスコストはかさむ一方です。
そこで、生まれたのが「省インフラ」の発想です、
つまり、身の丈に合わせて資産を減らす。それと同時に、
残した資産の価値を最大限に引き出す。
それには、民間の力の活用が欠かせないというわけですね。

かたや、地方の百貨店の多くは、
人口減少や地域経済の衰退によるマーケットの縮小に悩まされています。
まあ、岩手県花巻市のマルカン百貨店とか、
中国四国地方の天満屋などの例外はあるものの、
元気な地方百貨店をみつけるのは難しいのが現状ですよね。

この点、市庁舎には、毎日必ず、それなりの人数が訪れます。
集客力はバツグンですわな。
地方都市でこれほど魅力的なスペースはほとんど皆無に等しい。
1階に商業施設が入居すれば、安定的な来客を見込めるのはいうまでもありません。
というわけで、“奇妙な同居”は、
地域経済活性化のきっかけになりうるという話ですよ。

ここから、本題の「コンパクトシティ」の話になります。
私は、百貨店と市役所の同居には、
もっと積極的な意味合いがあると思っているんです。
それは「コンパクトシティ」構築に向けた
火付け役になるのではないかということです。

じつは、栃木市の試みには、大先達がいます。宮城県石巻市です。
石巻市は2010年、閉店した地元百貨店の空きビルを無償で譲り受け、
耐震・改修工事を行ったうえで、2階から6階を新庁舎として復活させました。
JR石巻駅を降りてスグの好立地に位置し、
栃木市役所と同様、1階部分には地元スーパーや美容院が入居しています。

私は、昨年末に石巻市役所を訪ねましたが、
もともと売り場だったという事務スペースは、
窓が少なかったり、役所なのにエスカレーターが設置されていたりで、
多少の違和感を持ったのも確かですが、なるほど、
「地方創生」には、こういう力強い知恵が必要なのかと、納得させられたものです。

石巻市は、東日本大震災で甚大な被害を受けましたが、
まちではいま、復興まちづくりが着々と進められています。
近代化とともに郊外に拡大したまちの規模をあらためて縮小し、
人口減少や少子高齢化に対して持続可能な、コンパクトなまちをつくる計画です。

コンパクト化には、中心市街地の活性化が欠かせませんが、
駅前の石巻市役所はその中核として機能しているといっていいと思います。
まあ、市役所と百貨店の“奇妙な同居”はユニークな事例ですが、
官も民も、ありったけの知恵をしぼらなくてはいけないのは間違いないでしょうね。

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