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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

日産・志賀さんの語る、これからの日本企業

昨日に引き続き、日産自動車 代表取締役副会長の志賀俊之さんが
早稲田大学大隈講堂で行った講演について書きます。
今日のテーマは、日本企業論です。

志賀さんの問題意識は、きわめて明快です。
かつての日本企業は、ソニーのウォークマンや
ビクターのVHS規格、セイコーのクォーツ時計のように、
世界を席巻する商品を数多く生み出してきました。
にもかかわらず、バブル崩壊以降の「失われた20年」の間に、
日本企業は内向きになり、イノベーションを生み出せなくなってしまった。
はたして、日本企業はもう一度、輝くことができるのか。
それには何が必要なのかと、志賀さんは問いかけます。

志賀さんは、日本企業には以下3つの強みがあると語ります。
1つ目は、「モノづくり」です。
単に生産活動を行うだけでなく、昨日よりも今日、
今日よりも明日のスピリットをもって、日々、カイゼンに取り組む力です。
2つ目は、「ヒトづくり」。チームワークを発揮して、
メンバー同士が助け合い、教え合いながら、
大きな成果を生み出すのは、日本企業ならではの強みです。
3つ目は、「おもてなし」です。つねに顧客の視点に立って、
そのニーズを絶えず汲み取りながらサービスを提供する力です。

これらの強みは、昔もいまも変わりません。
日本の自動車メーカーが、
バブル崩壊やリーマンショック、円高に苦しみながらも、
いまもなお世界シェア33%を確保し、世界一の座をキープしているのは、
これらの強みがあるからだというのです。
また、志賀さんは、自工会会長として、
東日本大震災の直後からサプライチェーンの復旧に尽力しましたが、
現場の人々の姿をみて、日本人の強みと底力をあらためて感じた、と語りました。

ただし、これらの強みにあぐらをかいているわけにはいかない。
新興国の成長や、多様な環境技術の登場、小型化・低価格化、
そして、自動運転技術などのIT技術の進化など、
これまでのクルマづくりの概念をガラリと変えるような環境変化に対応できなければ、
日本企業が国際的なプレゼンスを失うのは間違いない。
したがって、これからの企業には、従来からの強みに磨きをかけるだけでなく、
足りない力を補う努力が欠かせない。

そのためのポイントの一つとして志賀さんが挙げるのが、
「コトづくり」の視点です。

日本企業は、高機能、高性能、高品質の「イイもの」をつくることができる。
ところが、そこそこの性能、そこそこの機能、そこそこの品質の製品を、
リーズナブルな価格でつくる新興国メーカーになかなか勝てなくなってきた。
ひとことでいえば、ブランド力をつけなければ、価格競争を避けられず、
コスト力では新興国のメーカーには太刀打ちできない。
新興国メーカーに勝つには、発信力を高め、
ブランドの価値をきちんと認めてもらわなくてはいけない。

例えば、日産は、「コトづくり」強化に向けて、
日産グローバルメディアセンターを設置。
社内で起きていることをウェブやソーシャルメディアを通して、
一般の顧客に伝える仕組みを構築している。
また、「GT-R」の広告にウサイン・ボルトを起用し、
商品のストーリーを伝える工夫をしている。
それも、これも、ブランド価値向上にむけた取り組みというわけです。

ちなみに、「いま日産でいちばんブランド力のある車は何だと思いますか」
という学生からの質問に対して、志賀さんは次のように答えました。
「2つあります。1つは、世界で一番速いスポーツカーの『GT-R』。
もう1つは、世界一たくさん売れている電気自動車『日産リーフ』です。
『GT-R』のように3800ccのエンジンを積んで、バンバン走るクルマとですね、
『リーフ』のように電気で走る静かなクルマ。
両極を持っているのが、日産のブランド力なのかなと思います」

日産が「コトづくり」に向けて
新たな一歩を踏み出しつつあるのは確かでしょうね。

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