トヨタ自動車が役員体制を大幅に刷新します。
これは、社長の豊田章男さんが販売台数1000万体制下の
“新生トヨタ”の人事の姿そのものといっていいでしょう。
章男体制は、幾つかの試練を経て、この6月で7年目に入ります。
その大ナタぶりは、いまや驚くべき“腕力”といっていいでしょうね。
新体制のポイント、すなわち大ナタは、大きく二つあると思います。
一つは、副社長に初めて外国人を登用することです。
初の外国人副社長に昇格するのは、専務役員のディディエ・ルロワさんで、
トヨタ開闢以来、初めて外国人が副社長ポストを占拠することになります。
トヨタは2015年3月期の連結営業利益が前期比17.8%増の
2兆7000億円になると発表しました。
このまま円安が進むと、営業利益は3兆円に達するのではないか
といわれています。
いまや、押しも押されぬ世界一の自動車メーカーです。
その意味で、外国人のボードへの起用は、グローバルな視点を取り込み、
世界一の自動車メーカーに見合った経営体制をつくっていくうえで必然です。
また、世界一の自動車メーカーになれば、内外から厳しい目が
向けられることを覚悟しなければいけません。
女性役員を初めて常務役員として登用するのは、
これまた当然といえるでしょうね。
米国で長く広報を務めてきたジュリー・ハンプさんがそうで、
4月から東京に常駐します。
いま、「必然」「当然」と書きましたが、いずれも、
章男さんが世界の目を強く意識している結果にほかなりませんね。
外国人の役員の登用は、とかく内向きになりがちな
トヨタの企業文化に新風を吹き込むことでしょうね。
もう一つ、注目すべきは、グループ内の積極的な人事交流を進めたことです。
トヨタ副社長の伊原保守氏が、アイシン精機社長に就任し、
アイシン精機副社長の水島寿之氏が、トヨタ専務役員に就きます。
また、デンソー常務役員の奥地弘章氏が、トヨタの常務役員に就きます。
これまでもトヨタ本体からグループ会社への“天下り”人事は
行われてきましたが、今回のようなグループ会社からトヨタ本体への異動は、
初めてです。
これは、本体およびグループに大きな刺激を与えることは
間違いないでしょうね。
こうしたグループ内の人事交流の背景には、
ズバリ、グループ強化があります。
トヨタは14年末、グループの部品メーカーの再編に踏み切りました。
1000万台体制の維持は、グループ強化を抜きにしては考えられませんからね。
その狙いは、ブレーキ、ディーゼルエンジン、マニュアルトランスミッションの
国内3事業の重複解消にあります。
たとえば、デンソーとアイシン精機のブレーキ事業を統合するなど、
グループ内で事業集約を進めて、ドイツのボッシュなどと堂々と対抗できる
“強い部品メーカー”をつくろうとしています。
「グループ会社の中には、トヨタ本体に比べて甘さや緩さが目立つところがある」
と、かねてから指摘されています。
これほどまでにグループ内での積極的な人事異動を進めるのは、
グループ会社の引き締めと同時に、トヨタグループとしての一体感を
強める狙いがあるのは間違いないでしょう。
そこには、豊田章男さんの強い意思が働いているのはいうまでもありませんね。
あえていうならば、グループ交流人事の活発化は、グループ強化の仕上げ的意味を
もつといえるでしょう。
それから、本体からグループ会社へ出た人材が、再び本体に“復帰”する
人事も目を引きます。
元トヨタ専務役員の伊地知隆彦さんが、東和不動産社長からトヨタ副社長に
復帰する人事がそれです。
この本体への復帰人事は、じつは章男さんが社長に就任して以来、
珍しいことではありませんね。
章男さんは、いまや後継者づくりを意識して、いろいろと試している部分が
あるのではないかと思いますね。
トヨタは今日、1000万台体制という未知の領域に足を踏み入れています。
1000万台体制となれば、O&M(オペレーション&マネジメント)も、
これまでとはまったく違ってきます。
今回の新しい役員体制は、1000万台体制へのO&Mの構築にほかなりません。
章男さんは、今年度を「意思ある踊り場」と表現してきました。
いま、ここでムリをして拡大路線を走ると、リーマンショックのときと同様に、
足元をすくわれると考えたからですね。
つまり、「意思ある踊り場」に何をするべきか。
その答えが、グループの再編・強化であり、今度の新役員体制です。
また、章男さんは、「商品と人材で年輪を一本ずつ刻んでいく」ともいっています。
年輪を刻むように、全員で一歩ずつ歩み、持続的成長をつづける。
その実践において、杖の役割を果たすのが、
いわばオールトヨタの結束と一体感というわけですね。